えほん育児日記
〜絵本フォーラム第115号(2017年11.10)より〜

「こころの根っこにある絵本」

 

澤井 彩(絵本講師)

 

絵本講師 澤井彩 気がつけば、娘二人と一緒に絵本を開く機会がなくなっていました。長女16歳、次女14歳。毎日それぞれ、学校や部活に忙しく、たまの休みは友人とお出かけ。青春を謳歌している様子は嬉しくもあり、ともに絵本を楽しんだ日々を思い出すと少し寂しくもあり……。

  しかし、振り返れば私自身もそうでした。幼い頃の私は、母が絵本を毎日読んでくれるのが楽しくて、その時間と空間が大好きでした。読書も大好きな子どもでしたが、中学生になると学校、部活、塾に追われる毎日で、本を手にする時間がめっきり減ってしまいました。高校生になると、友人との時間が何より楽しく、長電話(おそらく今ならスマホ)を母からよく注意されていました。

 絵本からはほど遠い生活を送っていましたが、不思議と「将来子どもが生まれたら、絵本をたくさんよんであげたい」という思いはずっと胸にありました。

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 そして長女の誕生をきっかけに、私の<第2次絵本黄金期>がやってきました。読んであげたい絵本は、読み手の私にもとても楽しく、子どもと一緒に味わう絵本の世界にすっかり魅了されました。

 娘二人は好きな絵本もそれぞれ違いました。同じ絵本でも反応するところが違っていて、一冊の絵本だけでもたくさんの発見と楽しみがありました。くり返し何度も何度も読むお気に入りの絵本や新しい絵本との出合い……。ほんの数冊から始まったわが家の絵本は、幸せな思い出とともにどんどん増えていきました。

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 私が「絵本講師・養成講座」を受講したのは、そんなふうに娘たちと毎日たくさんの絵本に触れ、その世界を堪能している時期でした。「絵本講師・養成講座」を修了して7年が経ち、修了当時と今では絵本講師としてお伝えできることも少し変わってきました。

 娘たちの<第1次絵本黄金期>(私の第2次黄金期)が去ってしまった今だからこそ伝えたいと強く思うこと。それは、長い人生の中で子どもに絵本を読んであげられる時期はそう長くないということ。子育て期間のそのわずかな限られた時間を親子で楽しみ、大切にしてほしいということです。

  絵本の読み聞かせだけではありません。子どもと手をつないで歩くこと。ひざの上に抱っこすること。眠りにつくまで寄り添うこと。そのどれもが期間限定だったことに、卒業してから気づきました。晩年になり子育てを振り返ったときに巡ってくるのは、きっとそんな濃密な時間の記憶ではないかと思うのです。

  ですから妊婦さん対象の講座では、そんな経験談も交えながら、これから始まる子育ての日々は忙しいけれど、その何倍もの喜びや楽しさがあるということをお伝えしたいと思っています。そして、親子でともに楽しめる絵本は子育てをさらに彩り豊かにしてくれますよ、とそんな思いを込めてママとお腹の赤ちゃんに絵本を読み、届けます。そこから始まる絵本の一歩があったなら、そんな嬉しいことはありません。

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 求めずとも情報がどんどん入り込んでくるこの時代。そんな中で出番の減ったわが家の絵本たちは、けっして出しゃばることなく本棚に並んでいます。静かにいつもそこにいて、手をのばしてページを開けば今も温かく包んでくれるのです。今の私の子育ての理想は、親として、そんな絵本のような存在でいることかもしれません。

  ある時はど真ん中に、またある時はそっと傍らに……。わが人生に絵本あり! 娘たちの心にも絵本の種が蒔かれていることを信じて、今しかない子育てを楽しんでいこうと思います。

(さわい・あや)

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