ジェリーの日本見聞録

 

『本の虜』

 先日、絵本講座で「なぜアメリカの牧場育ち、ポルトガル移民の子どもが日本で絵本講師、絵本作家の活動をしているのですか」と聞かれました。
ちょっと考えて「私は絵本の虜です」と答えました。

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小さい時に家には絵本はありませんでした。
絵本を読んでもらった記憶もありませんが、7歳か8歳のころからいつも近くに本がありました。
本が好きになったきっかけは「Reading Rainbow」という子ども向け番組だと思います。
その番組はいつも1冊の絵本をテーマにして、その絵本に出てくる場所に行ったり、内容について話したりします。
そして最後に子どもたちからのオススメ絵本を紹介するコーナーもありました。
学校から帰って、牧場の手伝いに行く前に、おやつを食べながら見ていました。


この番組で一番好きな絵本ドナルド・ホールさんの『にぐるまひいて』に出会いました。
本好き少年だった私は当たり前のように「書く仕事」がしたくて、いつもオリジナルの絵や物語を作っていました。
高校生になった時に「それでは生活はできないよ」と言われたので、その夢をポケットにしまっていました。
その頃ホスピスというものに出会い、ホスピスの道に進みましたが、本好き少年は本好き青年・本好き大学生になりました。

本の虜

 大学に入った時、自分はホスピスに向いていないと気づき、言語の先生になろうと決めました。
両親はポルトガルの移民で家の中では9割ポルトガル語で会話をしていたので「ことば」が好きでした。
また、日本人の英語勉強と同じように11年間スペイン語を勉強しました。
スペイン語の先生になると決めた日に本屋さんで宮崎駿さんの『風の谷のナウシカ』に出会って、私の運命は変わってしまいました。
偶然か必然かわかりませんが、この作品に出会えていなかったらこの文章を書いていないと思います。
『風の谷のナウシカ』は雑誌で連載していて、毎月30ページしかありませんでしたが、日本では物語がかなり前に完成していたようでした。
しかし、英訳のペースが遅すぎて、『風の谷のナウシカ』にどっぷりハマった本好き青年の私は、続きが読めるように日本語を独学で勉強し始めました。
この作品のおかげで、自分が違う道を歩むことになりました。
その道を歩みながら、本好き青年は国木田独歩、遠藤周作、三浦綾子、三島由紀夫に出会って、この道の終点は日本でした。

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 日本で子どもの言語の先生になり、レッスンの中でも絵本をたくさん使いたくて、いろんな絵本を読みましたが、自分が好きだった絵本の英語のレベルはまだ生徒には難しかったことも多くありました。
自分のレッスンにピッタリ合う絵本はなかなかありませんでした。
なので自分で絵本を作ろう!と決めました。

 最初の3冊は簡単に書けましたが4冊目はどうしてもうまく書けなくてとてもヘコんでしまいました。
その時にテレビで絵本講師の方(川口結実さん・東京7期)が出ていました。
すぐに「絵本講師」を検索して、次の日に申し込みました。
そのときは読み聞かせや絵本講座をやってみたいという気持ちは全くなくて、もっといい絵本がかけるようになりたいと思って申し込みました。
その「絵本講師・養成講座」の途中でまた私の運命を変える絵本に出会いました。
森ゆり子理事長の絵本講座の中で出会ったルース・ボーンスタインさんの『ちびゴリラのちびちび』でした。
この絵本で「絵本は自分のためのもの」ではなくて、「皆さんと一緒に経験したいもの」だと強く感じました。
その絵本から影響をうけ、読み聞かせや絵本講座をすることになりました。

 私の人生を振り返ってみると、ずっと絵本から影響を受け続けています。
これからも本と共に歩みたいと思います。私は本の虜です。
今までもこれからも……。
(ジェリー・マーティン)

 

 

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