たましいをゆさぶる子どもの本の世界

 

「絵本フォーラム」第116号・2018.01.10
●●105

色・形・数…、モノ・コトの概念を目と耳の感覚受容で楽しく描く

『とりがいるよ』(KADOKAWA)

 

けんぽうのおはなし 今回は久しぶりに幼児絵本を読む。幼児をうならせる(幼児が心からよろこぶような)本に出会うと、忘れてしまいがちな素朴な気分をいくらかなりと取り戻せるように思う。きっとそのとき、絵本は、大人のぼくの本にもなっているということではないか。

 幼児絵本のなかにコンセプト・ブックスというカテゴリーがある。モノやコトの基本的概念をモチーフとする絵本である。簡単にいってしまえば、色や形、数・量、さらに、大小・長短・軽重・表裏、そして、言葉をつくるもととなる「あいうえお」や「ABCDEF…」などの表意文字などを題材にする絵本だ。高名なエリック・カールやポール・ランド、クヴェタ・パツォウスカー、さらに杉田豊、五味太郎、安野光雅など、多くの絵本作家が一再ならず挑んだ分野で、多彩な傑作を生み出している。

 しかし、コンセプト・ブックスはたやすく生み出せない。知識を与えようと構えると教材のようになったり、絵文字や絵数字に絵解きを加えた図鑑で終わってしまう。 <幼児が心からよろこぶような>絵本には程遠い、<勉強のための> 〈勉強のための〉 絵本になりがちなのだ。

 で、今回は、作家・イラストレーター共作になる『とりがいるよ』を読む。B5ザブトン型24頁の小さな絵本。これが、すごくいい。とても爽快な気分になれる絵本なのだ。

 はじめてこの絵本に触れたのは、目と耳からで…。テキストを担当した作者本人から、直接、読み語ってもらう機会を得た。作者が視聴者に絵本頁面を披露しながら読み語る。ことばのやさしさと、明瞭な線描なのにやわらかく描きあげたイラスト。色調も明るく、ふんわりと流れる話の展開に、ぼく自身、すっかり魅了されたのだ。以来、何度となく読んで、そのたびに「いいね」とつぶやいている。

  とびらの「とりが いるよ」の言葉から話ははじまる…。とびらを開くと、一匹の白い小鳥が登場。ここから頁をめくるたびに舞台は小さなおどろきを与えていくのである。

 次頁をめくる。と、72匹の小鳥が右に行進中。テキストは、「いっぱい とりが いるよ」と語り、さらに次頁をめくると、行進中の鳥のなかに一匹の赤い小鳥が…、テキストは、「あかい とりが いるよ」とだけ…。次は青い鳥が出てきて、次は大きい鳥…。こんな具合に、ゆったりとしたテンポなのに心地よいリズムで話はトントンと…。

 色・形・数、大小・長短…。目や耳を通じて視聴者にとびこむ感覚が新鮮で、読み手も聞き手も気分がのって楽しくなる。面白いではないか。大の大人のぼくがそんな風に感じるのだから、幼児たちはもっともっとよろこぶのではないだろうか。

                   *     *     *

 作者ふたりが意識しているかどうか知る由もないのだけれど、この絵本がすばらしいのは、大人が意識する知識としての色や数の概念を、目や耳から受ける感覚に留めて、意味や知識を受け取らせようとしていないことではないかと、ぼくは思う。かくして、勉め強いる勉強には決してならない〈幼児が心からよろこぶような〉 <幼児が心からよろこぶような> 傑作絵本が誕生したのではないか。

 そののち、小鳥たちは川を泳ぎ、森をぬけて広場に到着。いろんな小鳥が集合して「ぴい ぴい ぴい ぴい」となかよく遊ぶ。最後のページをめくると、びっくりの展開…。小鳥たちは大空に舞うようにバタバタバタバタと飛んでいくのだ…。

  こんなコンセプト絵本にふれて、ぼくはすこぶる気分がいいのです。

(おび・ただす)

(『とりがいるよ』風木一人・さく たかしまてつお・え KADOKAWA)

 

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