こども歳時記

〜絵本フォーラム116号(2018年01.10)より〜

平和への祈り

 今年のお正月、どこで、どなたと過ごされましたか。 

 私は毎年、元旦に家族揃って近くの神社に初詣でに行きます。
家庭を持つまで、私は毎年晦日、大晦日、元旦と、祖父が宮司を務める神社を手伝い、合間に叔父や従弟妹らといろいろな話をしました。
そうして育った私には、神様はいつも見ていてくださる存在で、「本当にいるか」という疑問を持ったことはありませんでした。
ですから昨年息子と話をしていて「神様が本当にいるとは思わない」という彼の言葉に驚きました。
「だって、本当にいるのなら世界中にこんなにひどい目にあっている人がいるわけがない」……。

      *    *    *

 『いのる』(長倉洋海、アリス館)という絵本があります。
世界各地の人々の祈りの姿は、何を伝えるでしょうか。人々は、祖先や自然との結びつきの中で、自分自身や大切な人の生と向き合い、深く静かに祈る。
その真摯な姿はとても美しく、真に人らしい凛とした尊さを感じます。

 大切な人と今日も共にいられること、それは平和へのいのり。

 著者は、《平和への思いといのり。》《その道のりはとてもとても長い。
でも、あきらめない。自分の思いを、つぎの人たちへつなげることが かならずできるはずだから。》と綴ります。

  

 大切な人と共に生きていること。
食卓を囲み空腹を満たすしあわせ。安心して眠れること。
子どもたちが大地に遊び、日々育っていくこと。
それは何もなければ当たり前のようになってしまって、私たちはついもっと違うことを欲して不満を感じたり心配したりするけれど、本当にかけがえのないものは、ここにこそあります。

 自然の力にはどうしようもないこともあるけれど、何があろうと人が人のいのちを奪ってよいはずがない。
そこにはどんな理屈も通りはしない。戦争は何も生まない。

      *    *    *

 子育ての日常は、決して楽しいことばかりではなく嵐の中を行くような季節もあります。
どんなに大変でも、あなたがいてくれて嬉しい、と愛情をこめて伝えてもらう幸せを吸い込んでそれを栄養として育っていけば、子どもたちはきっと、一番大切なものを心の深いところで溜めていくでしょう。
だれもがそのような子育てをできる社会を、私たち大人は力を尽くしてつくらなくてはと思います。

 そうすれば、その幸せを誰にも奪われないために、平和を守るために、人は自分なりの表現で、さまざまな違いを越えて、世界中の人とつながっていくことができるでしょう。
その知恵と勇気を私たちみんな、子ども達と共に、育てていきたいのです。

 たくさんの絵本に、子どもたちに伝えたいことばが、愛や知恵や勇気が、いっぱい詰まっています。
あなたと一緒にこの絵本を読むことができて、お母さんはとても幸せ。
子どもがいくつになっても、今日も伝えていきましょう。
くまだき・かよ


熊懐 賀代(絵本講師)
絵本講師 くまだき かよ


いのる

『いのる』
(アリス館)


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