幼い頃の心地よい記憶に「声」があります。母は添い寝をしては子守唄を歌いながら、私より先に寝てしまいました。あの頃、時間はもう少しゆっくり流れていたようです。今は早すぎる時代の流れの中ですが、読み継がれるよい絵本はたくさんあります。
わたしが初めて子どもに絵本を読んだのは学生時代、実習先の幼稚園でした。『しっぽのはたらき』に子どもたちが応える声と高揚した様子に驚いたことを覚えています。それは互いの心の距離を一気に縮めるような絵本の力を体感する衝撃でした。『てぶくろ』を読んだ後に、段ボールで作っておいた大きな手袋に入って遊んでいると「これちょっと(おはなしと)ちがうよ」と言う子がいて、ごまかしのない子どもの理解力、想像力を知りました。
わが子と読んだ絵本は『いいおかお』『もこ もこもこ』『ちいさいおうち』など。好きな絵本を選んで一緒にページをめくる、あの何とも言えないほっとするひとときがわたしたちは大好きでした。
現実から空想の世界まで、自由に行ったり来たり。絵本を読むと楽しくて、一緒に読むとなぜか心が落ち着いて元気になるのです。知る喜び、ことばのおもしろさ、やさしさも正義も悲しみも、いろんな気持ちを共有しました。子守唄を歌ってくれた母も孫にはよく絵本を読んでくれました。その声を聞きながら、わたしもどんなにやすらぎ励まされたことでしょう。
もう聞くことはできないその声は、色あせることなく温かく心のなかに生きています。
(ゆだて・ようこ)
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