ジェリーの日本見聞録

 

『ホーム』

 学生時代、1番好きな科目はいつも言語でした。英語でも、スペイン語でも、日本語でも、言葉と言葉をレゴブロックみたいに組み立てたら何が出来上がるだろうというワクワク感があります。先日、英語を勉強している友達に「House」と「Home」の違いを聞かれました。実は私、英語がちょっと得意なので胸を張って「私にとって“House”という言葉は日本語の“家”と一番近いと思います」と答えましたが、「Home」という言葉についてはかなり悩んでしまいました。

 日本では「Home」という言葉をよく耳にすると思います。私が日本語を勉強し始めた時に、先生が平仮名とカタカナと漢字で書かれる言葉の違いを説明してくれました。「日本生まれの言葉は平仮名で書き、漢字は中国生まれの言葉、カタカナで書く言葉はそれ以外の国で生まれた言葉です」。この説明は簡単すぎるかもしれないけど日本語初心者の私にはわかりやすかったです。日本に来てから、カタカナ語を目にするケースがたくさんありました。ライスや戦隊レンジャーの名前は1番わかりやすいですが、いつも気になっていたのは「Home」でした。もちろん国際的な影響もあると思います。日本人は「ホームパーティー」「ホームボタン」「マイホーム」の言葉を当たり前のように使いますが、日本人が「Home」と「House」の言語的な区別をしているかどうかを知る事は興味深いことだと思います。

HOME  「Home」という言葉は、「House」と同じく建物自体を示す意味もありますが、もっと感情的なニュアンスがあります。「ホームボタン」を押すと最初の画面に戻ります。プログラムやアプリがおかしくなってもそのボタンを押すと安心できるところに戻ることができます。「ホームパーティー」はパーティーですが、自分の家でしますので知らない人だらけでも自分の家なので安心できます。「マイホーム」は借りているものではなくて、自分のものなので壁や床に傷をつけても安心して暮らすことができます。英語に「You can always go home」ということわざがあります。何があってもいつでも帰ることができるという意味です。けれど引っ越してしまったら「Home」と呼べる場所を失ってしまいますし、自分が育った家でも「Home」と感じない人もいるかもしれません。その反面、転勤などで何度も引っ越しをした人は引っ越した先を「Home」と呼ぶ事もあると思います。

 その友達はずっと私の答えを待っていましたが、私は頭の中でたくさんの事を一気に考え過ぎてしまい、ちゃんと答えることが出来ませんでした。その夜、家に帰ってカリフォルニアにいる家族とビデオチャットをしました。話しながら実家のリビングルームを何気なく見ていました。私はその家で育ち、その部屋で遊びましたが、今ではそこを「Home」とは呼びません。「両親の家」という感覚で帰ります。その晩は目が冴えてなかなか眠れませんでした。頭がまだまだ働いているような感じがしました。眠れない時はいつも本棚から数冊の絵本を選んで読みます。その夜、目にしたのはカーソン・エリスの『わたしのいえ』です。英語のタイトルは『Home』です。「この本を読んだらまた頭が働き出すかな?」と迷いながら手にしました。

  この絵本は世の中にはいろいろな家があり、その家にいろいろな人が住んでいるという内容です。私はこの本の画が好きで買ったので、深く読んだことがありませんでした。その時「Home」と「House」の違いがわかると期待してこの絵本を手にしたのではありませんが、あるページに答えがありました! 文章はとても簡単ですが、絵の中に答えがありました。出てくる人物はとても幸せそうな顔をしているのです。その時、友達にメールでこのことわざを送りました。「Home is where the heart is」「心が住んでいるところがHomeです」。すると友達から返事が来ました。「そうですね。Homeは心を守るところですね」。「Home」と「House」の違いを言語学的に説明するのは簡単ではありませんが、感情的には説明しやすいと思います。言葉って面白いですね。
(ジエリー・マーティン)

 

 

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