子育ての現場から

子育ての現場から 6


子どもが地域の中で育ち、

さまざまな経験ができるきっかけになるように


北 素子

 わたしは、子育て支援のNPOの運営に携わっており、事業の一つとして、地域子育て支援センターの受託運営をしています。地域子育て支援センター(地域子育て支援拠点事業)は、地域における子育て家庭を支える国の取組みとして、1993年度に始まりました。市町村が実施主体として認めた団体等に運営委託する形をとっており、0歳から就学前の子どもと保護者が無料で利用できる場として、全国に7,259か所(平成29年時点)あります。「子育て中の親子の交流促進」「子育てに関する相談・援助」「地域の子育て関連情報提供」「子育てや子育て支援に関する講習」を行い、地域の支えあいと子育て力の向上をはかることを目的としています。

  こういった子育て支援の場や機会が年々増えていることや、ワーク・ライフ・バランス、待機児童解消、育児休業期間の延長、就学前教育の無償化などの近年の動向をみると、子育てを取り巻く環境は整備され子育ての負担も軽減しているのでは? と思われるかもしれません。しかし、三間(時間、空間、仲間)の確保が難しい社会において、子育て中の親の孤独感や負担感は、減少どころか増大しているのが現実です。

 わたしたちが運営するセンターを利用する保護者の大半が、核家族で、実家も遠く、夫は朝早くから夜遅くまで不在、身近に頼る人がいないという「母親」です。最近では「父親」「祖母」「ベビーシッター」が子どもを連れてくるケースも増えてきました。

 子どもの年齢は、0歳から3歳が全体の9割。保護者からの相談内容もさまざまです。授乳、離乳食、睡眠、身体の発達(発育、言葉など)、心の発達(イヤイヤ期、赤ちゃん返りなど)、子どもの性格(乱暴、消極的など)、子どもとの関わり方、母体の健康、保育園や幼稚園、家族(子育ての方針、家事分担、実父母や義父母との関係)、仕事……など。これらの利用者の課題解決に寄り添うよう心がけています。

 絵本の質問や相談も多く、絵本の紹介や、有用性についてお話をしています。ある1歳児のお母さんから、「絵本を読むのは面倒で好きじゃない」とはっきり言われたことがあります。母子関係も良好ですが、ママは子どもと二人きりで過ごす生活に疲れていて、大人との会話を目的にセンターを利用しています。子どもはママに絵本やおもちゃを差し出してねだりますが、おしゃべりの片手間に相手をする程度です。そこで私が絵本を読むことにしました。その子はママの背中越しに、私の顔と絵本を交互に見ながら様子をうかがっていましたが、日を重ねるごとに、私を見ると本棚から絵本を持ってきて、膝に座るようになりました。次から次へと持ってくる絵本を読んでいるうちに、その子の好みもわかってきて、秘密を共有しているかのような心の通いあいを楽しんでいました。そんな私たちを見て、「この子楽しそうですね。私も読んでみようかな」とママがおっしゃいました。今では、寝る前に絵本を読むことが習慣となっているそうで、普段のママの会話にもポジティブな言葉が多くなってきています。

  親が気づかない子どもの長所を伝えてあげると、子どもを見る親の目線や対応も変わります。その親の子育ての良いところに気づいてあげると、子育てへの自信にもつながります。子どもの育ちには、家族以外のさまざまな人との触れ合いや、自然やものとの関わりが大切です。

 この活動をして約10年。子育てを支援しているつもりが、自分が支援されていることに気づきます。社会はお互いさまの関係でできています。ナナメの関係の場づくりを大事にしながら、子どもが地域の中で育ち、さまざまな経験ができるきっかけになるような支援をしていきたいと思います。


(きた・もとこ) きた もとこ

絵本フォーラム120号(2018年9月10日)より

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