私の絵本体験記

「絵本フォーラム」120号(2018年09.10)より

「ほんとうによいもの」

 佐藤 香波 (栃木県宇都宮市)

さとう かなみ 私の両親は共働きで忙しかったのですが、父も母も、妹と私を膝の右と左に乗せて、毎日絵本を読み聞かせてくれました。その時の声音、ぬくもり、部屋の匂い、空気のゆらぎ。今でもリアルに思い出すことができます。  

 そして、私の3人の子ども(大学3、高2、中3)の子育ての時にも、私が読んでもらったセピア色の絵本たちが大活躍しました。私が読み聞かせをしている目の前のわが子が、子どものころの自分自身と重なりました。両親と私とわが子が、時間を超えて、思いを共有しているような不思議な気持ちになったものです。

 今では子どもたちもすっかり大きくなり、思春期の真っただ中です。日常の会話は「学校どうだった?」、と聞けば「ふつう」とか「まあまあ」とかそっけない返事です。悩みごとを相談してくることもほとんどありません。でも、子どもたちの顔色や声の調子や気配で、「大丈夫なんだな」 「がんばってるんだな」 「今ちょっとつらいのかな」と感じ取ることができるのです。それは、子どもたちが幼いころから、親子で時間をかけてはぐくんできた「絆」のおかげだと思っています。

 「ほんとうによいもの」というのは世代を超えて、10年後も20年後も50年後も、常に新しいものとして、新鮮な感動を与えてくれるものです。

 絵本に出会えてよかった。そして、絵本に出会うきっかけを作ってくれた両親に感謝の気持ちでいっぱいです。
(さとう・かなみ)


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