子育ての現場から

子育ての現場から 7


ネット依存対策の提案


川口 結実

 若年層のネット依存が深刻な社会問題となっています。厚生労働省の調査によると、日本国内でインターネット依存の中高生は推計51万8千人にもなるそうです(2013年調査)。精神的な問題だけでなく、犯罪にまきこまれるケースもあるため、ネットは便利なツールであると同時に、使い方次第では凶器にもなります。  

 お子さんのいらっしゃるご家庭では、わが子はネット依存については大丈夫なんだろうか? この先ネット依存にならないためにはどうしたらいいのか? など、大なり小なりネット依存による精神的な問題について気にされていると思います。

 私も、つい最近まで15歳の長女がスマートフォンを長時間使うことが気になっていました。1歳を迎えた頃から、絵本で子育てをしてきた長女は、中学入学前の春休みからスマートフォンを使い始めました。日に日に使用時間が増えていき、様子をうかがうと何やらSNS(ソーシャル・ネットワークキング・サービス:会員制交流サイト)で、娘が好きな芸能人のファン同士で交流もしているようです。ニュースで見たことのある、ネットにまつわる事件が頭をかすめました。不安なあまり、娘の行動を詮索したり、注意することが増えました。ネットのことでもそれ以外でも、中学生になってからささいな親子のいざこざが増えていき、ため息をつくことが増えました。人生が終わったかのような暗い気持ちに、完全に支配されてしまいました。

 我が家には、長女が4歳の時からテレビがありません。理由はいろいろありますが、夫婦共働きなので、せっかく家にいる時ぐらいは家族の時間を意識して持ちたいと考えたことが理由の一つです。同じ時期に、絵本をまとめて購入し、本棚の長女の手が届く位置にたくさん入れました。テレビを捨てることと、絵本で本棚を埋めることは、夫婦で話し合って決めました。

 長女が5歳の時に次女が誕生し、その5年後に三女が誕生しました。テレビを捨てたあの日から現在まで、我が家では絵本がコミュニケーションの大部分を担っています。長女に絵本を読む機会はすっかり減りましたが、絵本の話を誰かが始めると、かけあうかのように長女や他の家族が話に参加して、一体感が生まれます。

 最近、三女に絵本を読んでいる時、ふとかつて長女に絵本を読んでいた自分の姿、そして絵本を真剣な眼差しで見ていた長女の姿を思い出しました。今では背丈は私に迫り、すっかり大人並みの長女ですが、記憶の中ではまだ小さくて、読んで読んでと絵本を持ってきます。それからは絵本を開くだけで、あの子を信じよう。きっと、あの子は大丈夫。と、自分を励ますことができるようになりました。

 長女と一緒に紡いだ絵本で子育ての体験は、今でも私たち親子の心を繋いでくれています。最近ようやく、その凄さを実感しました。「私には、私のことを『大切だ』と思ってくれる人が、信じてくれる人がいます」。このように子どもが自信をもって言えることが、何よりのネット依存対策だと私は思います。 鮭が産まれた川にもどってくるのは、川のにおいを覚えているから戻れる、という説があります。『ピリカ、おかあさんへの旅』(越智典子/作、沢田としき/絵、福音館書店)で、産卵のため故郷に帰った鮭のピリカは、川に近づいた時に「おかあさんのにおいがする」と思います。人間が自己肯定感を感じられる時というのは、鮭が故郷の「におい」のようなものを感じることと同じかもしれません。


(かわぐち・ゆみ) 川口 結実


絵本フォーラム121号(2018年11月10日)より

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