えほん育児日記

   
母になった喜びとダウン症という衝撃


~絵本フォーラム第121号(2018年11.10)より~  第3回

わたしの子育て3 ダウン症児の親の会の勉強会で、公文教育研究会の方から子どもの言葉の習得についてお話を聞く機会がありました。公文が脳科学の大学教授と親子の読み聞かせについて共同研究をしたところ、3歳までに1万冊くらい絵本の読み聞かせをすれば、子どもの脳がよく発達することが分かった、ということでした。1日10冊を3年間続ければ1万冊を超える計算です。私は、娘の言葉の発達を促すには「これだ!」と思い、今まで以上に熱心に絵本の読み聞かせをしました。私自身、本を読むのは大好きでしたし、赤ちゃん絵本は文章が短いのであっという間に読むことができます。

 最初は一日10冊(同じ絵本を10回でも10冊と数える)のノルマを達成することに一生懸命でした。でも、しばらくすると娘がお話を分かって反応してくれるのが楽しくなってきました。何度も同じ絵本を読んでいると娘はお話を覚えてしまい、『うさこちゃんとどうぶつえん』(ディック・ブルーナ/ぶん・え、石井桃子/やく、福音館書店)では≪うれしい うれしい ばんざあい!≫を読む前にバンザイをし、『おひさま あはは』(前川かずお/作・絵、こぐま社)では≪あはは≫と読むたびに「あはは」と笑いました。

 1歳になった頃から、実家の母が申し込んでくれた子どもの書店からの配本で、毎月絵本が届くようになりました。ある日、「新しいご本が来たよ」と絵本を見せると、娘は目を大きく見開き、バンザイをして、全身で喜びを表現しました。まだ発語はありませんでしたが、このように自分の思いを表せるようになったのだ、と感動しました。

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 だんだんと好き嫌いや意思表示がはっきりしてきて、1歳半を過ぎると、よく知っている絵本を私が読もうとすると手で払いのけ、比較的新しい絵本を読んでもらおうと手に持ったまま私の両足の間に座ってくるようになりました。内容を覚えている絵本は一人でパラパラめくって見ていましたが、きっと頭の中でお話をイメージしていたのでしょう。

 歌に合わせて手遊びをするようにもなりました。お気に入りのパンダのぬいぐるみとお風呂ごっこやおままごとなど見立て遊びもするようになりました。泣いている子どもを見つけると、両手を両目に持っていき「えーん」と言って泣く真似をして、「泣いているよ」と伝えてきました。まだ喃語しか出ない娘でしたが、こちらの言っていることはよく分かっていましたし、伝えたい気持ちが育っているのがよく分かりました。

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 ある日の勉強会で、障害児も教えているという公文教室の先生が「あきらめるのは親です。子どもわたしの子育て3はあきらめていません」と話されました。私はドキッとしました。そうだ、子どもが伸びようとするのに壁を作るのは親なのだ、子どもの成長は親次第なのだ、と思うと、大きな責任を感じました。そして、ダウン症があっても娘の可能性を信じて何にでもチャレンジしよう、と心に決めました。

 障害児のお母さんの中には、周りの目が怖いからと常に自家用車で移動される方や、健常児の親子の中に入っていくのは怖いとおっしゃる方がいらっしゃいます。私も娘を連れて出かけるのに最初は複雑な気持ちでした。でも、我が家には車がありません。どこへ行くのもベビーカーを押して公共交通機関を利用しました。

 障害児だけか、健常児と一緒か、を気にすることなく、親子で楽しめそうなイベントや教室には積極的に出かけるようにしました。娘は、コンサートで音楽に合わせて体を揺らし、書店などでのお話し会では集中して聴いていました。動物園や美術館にも連れて行きました。

 家族で旅行によく行きました。お気に入りのパンダのぬいぐるみ、絵本数冊、お絵かき帳とクレヨンがあれば、お昼寝をはさんで2時間くらいはご機嫌で電車に乗っていました。

 親子で楽しい体験をするたびに、娘の中に言葉と思いがたくさん溜まっていったような気がします。  
(たもと・ゆきえ)

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