ジェリーの日本見聞録8

 

『わたしの炎』

華氏451度 昔の人間にとって、火は命そのものでした。火がなくなると寒くなり、死んでしまうこともあります。どんな国でも火の伝説がありますが、大体は最後に、人間が神様から火を盗んで、人間の生活は人間らしくなります。火は必要なものなので、火に関することわざがたくさんあります。「眉に火が付く」、「火を見たら火事と思え」、「火の車」、「壺の中では火は燃えぬ」など。英語でももちろんあります。“Burning the midnight oil”, “Burn too bright”, “Fire in your belly”。英語の火のことわざは、やる気やモチベーションに関するものが多いです。

 私たちは、普段いろいろなところから火花のシャワーを浴びています。小さな火花から火がおこり、やがて立派な炎になります。人の成長と同じように。これまでの私の人生で、物事から火花をもらい、火になり、それが炎になったことが何度もあります。人生が変わるほどの火花は、二人の人から貰いました。不思議なことに、その二人の苗字は両方とも「森」です。

 一人目の「森」は、カリフォルニアの短大に通っていた時に出会った、森ひろこ先生でした。私が日本語に出会うきっかけは『風の谷のナウシカ』でしたが、日本語のドアを開いてくれたのは森先生でした。森先生から出ていた火の色はインパクトのある黄色でした。毎回のレッスンは、瞬きをするのがもったいないぐらい面白い時間でした。小柄な人でしたが空手の黒帯をもっていて、部屋に入ると存在感がある人でした。森先生は言葉だけではなく、文化も教えてくれました。

 一番記憶に残っているのは、夏に企画した、ショッピングモールのど真ん中での盆踊りのイベントです。一年生、二年生は一ヶ月ぐらい練習して、浴衣を着て、モールのお客さんの前で盆踊りを踊りました。森先生が「ではみんなで踊りましょう!」と言うと、サクラ役の他の生徒たちが普段着のまま踊り始めました。二年間、先生からもらった私の黄色い火が消えないように、先生はずっと優しい風を送ってくれました。その優しい風で黄色い火が立派な炎になりました。

 それから12年後、もう一人の「森」に出会いました。NPO法人「絵本で子育て」センターの、森ゆり子理事長です。理事長から聞いた初めての言葉が「絵本で子育てセンターの森でございます」でした。私が「絵本講師・養成講座」に申し込みをしたいけれど締め切りが過ぎています。まだ大丈夫でしょうか?」と聞きましたら、「はい、いいですよ」と、優しい声で答えてくれました。電話でしたので顔が見えませんでしたが、優しい笑顔を想像しました。実際、森理事長にお会いしたら、笑顔は私の想像した通りでした。

  「絵本講師・養成講座」の第4回目の講義の時に、森理事長から出ていた火の色は、森林のような爽やかなみどり色でした。けれどメモを取るのに必死でしたので、そのみどり色の火が私の中に入ってきている事に気づきませんでした。そのときからその火が少しずつ大きくなり、いつの間にか立派なみどり色の炎になっていました。

 私の中には、火が灯ったたくさんのロウソクが立っています。真ん中には大きなロウソク一本があって、その周りにいろいろな色の炎の小さなロウソクがあります。それはまるでカトリック教会のようです。人から貰ったやる気やモチベーションの火もこの中に入っています。

  レイ・ブラッドベリの『華氏451度』では、消防士は本を「敵」として燃やしてしまいますが、本当は本が持っている火花から、世界に出会い、新しい言語に触れ合い、新しい人と出会う可能性があります。その火花で、自分のロウソクが増え、人が成長します。私の一本のロウソクの周りにあるいろいろな色のロウソクのうち、「森」と名前が書かれた2本は特にまぶしいです。黄色の火。みどり色の火。この二つの火で私の中の炎は、清々しい青色に染められています。
(ジェリー・マーティン)

 

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