私の絵本体験記

「絵本フォーラム」122号(2019年01.10)より

「絵本と本音と夜更かし」

 大村 満子  (大阪府)

絵本と本音と夜更かし  大村 満子 平凡なストーリーでも唯一無二の自分ものがたり。自分の人生を小説にするなら、きっと子どもを産む前と産んだ後で前半と後半に分かれるのではないかと思います。目標や夢に向かって努力したり、壁にぶち当たって挫折したり、友人の生き方に憧れたり励まされたり……。今も以前と変わらず、そうやって生きているけど、子どもが生まれてからは何か根本的に違う気がします。立っている場所が違うのです。10歳の息子との生活は、子どもを育てるって自分を育てることなんだなと感じることも多くあります。息子の喜びや悲しみ、葛藤や夢を自分のことのように感じると愛おしさで胸がいっぱいになる。そして私自身の存在の小ささと無力さを痛感する。ずっと守りたい。でも、息子は嬉しいことにどんどん成長し、その一方で私はいつか来る巣立ちを意識するのです。

  「今日、寝る前に絵本読んでね」こんな風に言ってくると、夜更かし覚悟で息子とふたりでお気に入りの絵本を抱えてベッドに潜り込みます。ふたりというのが本音を言うには大切で、私にとっては絵本の読み聞かせがその時間です。でも、主人は絵本ではなくて、親子亀か鏡餅のように息子が主人の上に乗っているとふたりで本音が語れるようです。絵本を読む私の声を聞くと「あぁ幸せ〜」と息子はつぶやく、こんな愛おしい瞬間をいつまでもいつまでも心に残しておきたいと切なくなるのです。
(おおむら・みつこ)

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