こども歳時記

〜絵本フォーラム123号(2019年03.10)より〜

可能性を諦めない全ての人へ・・・   (岡部 雅子)

おかべ・まさこ 日差しが柔らかく春めいてくる今日このごろ、お子さまの入園入学を控え、期待と不安で胸いっぱいの日々をお過ごしの方も多いのではないでしょうか。子ども主体の高校・大学進学、あるいは就職であっても、親としては子どもが新しい環境で元気にがんばれるようにと祈らずにはいられません。

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 昨年の医学部の不適切入試をめぐる問題では、女子受験生への不利な取り扱いが明らかになりました。医学部入試は大学病院への採用試験を兼ねているため、結婚や出産で辞めるかもしれないという理由で女性差別が公然と行われていたというのです。学校で男女平等と教わりがんばってきた女性たちの前に、社会に出るときになって性差の壁が立ちはだかるのです。 先人たちが声を上げ続け女性が男性と同じように働ける環境の整備が進んできたものの、いまだ若者が性別で不利益を被ることに憤りを感じます。苦い思いに、次の世代の子ども達には性別に縛られず自分の可能性をあきらめないでほしいと願う気持ちが強くなります。

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 そう願っても何もできないでいる私を勇気づけてくれたのが『アリーテ姫の冒険』(ダイアナ・コールス/作、ロス・アスクィス/絵、グループ ウィメンズ・プレイス/訳、公益財団法人 横浜市男女共同参画推進協会/監訳)です。1989年に学陽書房から発行されベストセラーになったのち絶版になっていましたが、男女共同参画センター横浜がクラウドファンディングで寄付を募り、昨年11月に大月書店から復刊されました。原題は『The Clever Princess』、王子様を頼らず自分の力で人生を切り開く女の子が主人公の物語です。 この物語のすてきなところは、アリーテ姫が押し付けられた規範から解放されるためだけに魔法の力を使うというところです。制約がなくなると、姫はいきいきした生命力を発揮し、周りの人や動物の心も豊かにしていきます。そして、魔法の力で相手を傷つけたり争ったりすることなく、他の登場人物たちと仲良くし、勇気と知恵とやさしさで問題を解決していくのです。

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 小学生だった娘に読み聞かせた時には、かしこい女の子という理由で理不尽な扱いをされても、身の回りのことを丁寧に整え辛い環境を楽しく変えていく姫にしなやかな強さを感じました。 今回、読み返してみると、姫の味方になる女性たちの存在に惹かれます。ひとりは姫を育てあげ魔法の指輪を授けて送りだし、もうひとりは美味しい料理と楽しいおしゃべりで捕われの身の姫を励まします。姫の自分らしい生き方を認め支える二人の女性がとても頼もしいのです。この二人の生き方に、私たち大人世代ができることのヒントがあるように思います。 この春、羽ばたくみなさまが、新しいステージでお力を発揮できますように!
(おかべ・まさこ)



アリーテ姫の冒険

『アリーテ姫の冒険』
(大月書店)


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