私の絵本体験記

「絵本フォーラム」123号(2019年03.10)より

「娘とわたし・わたしと母」

 篠村 幸恵  (東京都)

娘とわたし・わたしと母 先日、八百屋の軒先に並んでいるゼンマイを見て、「お母さん、あれ、いっくん達が見つけたゼンマイじゃないの」と娘が言った。「えっ何の話?」記憶を駆け足で遡る。いっくん、いっくん……。あっ、いわむらかずおさんの絵本『14ひきのぴくにっく』に出てくるゼンマイの事だ。「あーあのピクニックに行く途中で見つけたゼンマイね。食べてみる?」と私。「うん食べてみたい」と嬉しそうに娘が答えた。

 この絵本を読んだのは、確か3歳の頃。9歳の今、急に思い出すのかと驚きました。一緒に料理して食べてみると、娘は「苦くてあんまり美味しくないね」と苦虫顔。大人になると美味しく感じる春の味です。絵本で先行体験し、実際に食べて実体験を。私と娘には、このようなエピソードが沢山あります。

 同じように、私と母の間にも沢山のエピソードがあります。母は私が小さい頃、毎晩絵本を読んでくれて、存分に楽しんだ私は大満足で眠りにつくのでした。ある晩、目覚めると隣に母はいません。母は私を寝かせてから、残った家事をしていたのだと思います。私が読みたいと言えば、何度でも読んでくれた母。冷たい足先を母の太ももに挟んでもらい、ポカポカしながら読んでもらった温かい記憶が残っています。主婦として母として、やることは山のようにあったはず。だけど私と一緒に絵本で遊んでくれた。何より私を尊んでくれた。それは今、私の原動力となり、後押しをしてくれていると、強く感じています。
(しのむら・さちえ)

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