ジェリーの日本見聞録

 

『最強なスーパーヒーロー』

最強なスーパーヒーロー 私はスーパーヒーローが大好きです。小学4年生の時、初めてアメリカンコミックを手に取って、今でも(今年39歳になりますが)続けています。好きになったきっかけは、スーパーヒーローのように背が大きくなりたかったからです。子どもの頃、私はとても小さくて、クラス写真を撮影する時はいつも前の列でした。アメコミの遠い遠い世界にいるスーパーヒーローに憧れました。けれども、私のすぐ近くにスーパーヒーローがいた事には、全く気づいていませんでした。

 そのヒーローは、アゾレス諸島のテルセイラ島という小さな島で10人の大家族の4女として生まれました。20代の時、近所のお祭りの帰り道に変わったお財布を拾いました。その財布の中に見たことないお金と「ジョー・マーティン」の名前が書かれているパスポートが入っていました。もうちょっと歩くと道端にトラクターが止まっていて、男の人が暗い夜道で何かを探していました。ヒーローと姉妹たちが「何しているの?」と聞くと、男の人はジョー・マーティンと名乗り、落とした財布を探していました。ヒーローがジョーに拾った財布を見せると、ジョーが探していた物だったので渡して、姉妹たちと歩きだしました。するとジョーがお礼を申し出ましたが、ヒーローは受け取りませんでした。この時、ヒーローは「この人はちょっと怪しい」と思ったそうです。

  次の日、ジョーはちゃんとお礼を言うためにヒーローの家に行きました。その日から毎日ジョーがヒーローの家にやってくるようになりました。まるでロミオとジュリエットのように、1階のキッチンの窓際で2人は話をしました。3週間ほど経った頃、ジョーからプロポーズを受け、2人は結婚して、めでたしめでたし。映画のような物語になりました。このスーパーヒーローの名前はマーガレット、私の母です。実はこの物語には続きがあります。

 ジョーはマーガレットと同じ島生まれ、同じ島育ちでしたが、大人になってからは彼はアメリカの牧場で働いていました。ちょうど里帰りした時に、マーガレットに出会い、恋に落ち結婚しました。

 マーガレットは全く英語が出来ない状態でアメリカに移住し、新しい人生を作り始めました。牧場の手伝い、家事をしながら元気な男の子2人を育てあげました。 毎朝4時半には起き、朝ごはんを作り、夫ジョーの見送りをして、子どもたち2人を起こしてスクールバスに乗せ、牧場の手伝いをし、お昼を作って、子どもたちが帰ってくるのを待って、また牧場の手伝いをして、夕飯を作って、洗濯をして、子どもを寝かせて、それで自分も寝るというように、仕事と家事と子育てに追われる毎日でした。

 唯一リラックス出来たのは、ジョーと2人でテレビを見る事でした。昼ドラマが大好きで、英語の勉強にもなったそうです。

 私が高校生になるまで、母は1人で夜に外出をした記憶がありません。私が知っているスーパーヒーローの中ではこれが出来るヒーローがいません。

 ベラ・B・ウィリアムズの『かあさんのいす』を手に取ると、母を思い出します。貧乏な大家族のせいかもしれませんが、母の夢はソファがあるリビングを持つことでした。

 初めて買ったソファは『かあさんのいす』に出てくるいすと同じぐらい派手でした。それから25年近くそのソファに座って、テレビを見たり、家族で楽しいひと時を過ごしたりしました。

 今では愛着があったそのソファも無くなり、別のものに買い替えられましたが、私の記憶の中では、そのソファの派手な色が母の深い愛情と強くリンクしています。 私が一番大好きなスーパーヒーローは、私の母です。超能力者ではありませんが、最強なヒーローだと思います。
(ジェリー・マーティン)

 

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