えほん育児日記
〜絵本フォーラム第126号(2019年09.10)より〜

『そらいろのたね』

 服部 勢津子(絵本講師)

はっとり・せつこ 私は現在、神戸市認定こども園の保育士をしています。その日々の中での、園児たちとの触れ合いをお伝えしたいと思います。

 毎年春の終りに、朝顔と風船かずらの種を子どもたちと一緒に、園庭や自分用の植木鉢や日除け用のプランターに植えています。花の季節が終わると種取りもしますので、年中児や年長児は、同じような黒い小さな種でも「朝顔は真っ黒だけど、風船かずらには白いハートの模様があるんだよね」とよく知っています。(風船かずらの緑色の風船が)「茶色くなったら風船を取って、中の種をとってもいいんだよね」、「まだかなぁ」と言いながら楽しみにしています。朝顔の花は「ジュース屋さんごっこ」や「色水遊び」にいつも活躍しています。

 そして絵本『そらいろのたね』(なかがわりえこ/文、おおむらゆりこ/絵、福音館書店)の出番ですが、今年はいつもと違う体験をしました。絵本を読み終えた後、4歳児の男子2人が「なあ、そらいろのたねは、どんな色だと思う?」 「白色かなぁ」と話し合っているのです。私にはその意味が分かりませんでした。「?」がいくつも頭に浮かびました。

 2人の話を側で聴いていた5歳児の女子が、「そらいろって、お空の色だよ。だから水色だよ!」と言いました。2人の男子は無言。もう一度女子は「そらいろは水色だよ!」と言いました。男子たちは「ふーん」という曖昧な返答でした。

  男子たちは「そらいろ」を色名とは思わず、「そらいろ」という名前の「種」だと思ったという。その思考を私は「面白い」と感じました。20年保育士をしていて初めての体験でした。

  知っているとばかり思っていたことを、実は知らなかったという驚き。これは何が原因だろう。親子の対話不足か。テレビの見すぎか。実体験の不足か……。

  「あ、見てごらん、空が赤いよ」 「きれいだね」 「雲が動いている。形が変わっていくよ。あ、恐竜になった」、なんていう親子の体験はないのでしょうか。

 そういえば、親子で手を繋ぎ歩いて保育園にくる園児は少なく、自転車や車での登園が多くなったように思います。回転寿司の「にぎり」の魚の名前はよく知っていても、家庭でつくる「ちらし寿司」を知らない子どもたち。給食のミニトマトは嫌いでも、自分たちで育てた園庭のミニトマトなら、もぎ取って、匂いをかいで皆と一緒に「甘いね」とパクリとできるのです。

 絵本『トマトさん』(田中清代/作、福音館書店)を読んでもらった後は、プール遊びをして、トマトさんもこんなに冷たくて気持ちがよかったんだね! とトマトさんの気持ちに納得しています。そして『トマト』の歌をうたい、トマトって上から読んでも下から読んでもトマトだと喜ぶ子どもたち。2番の歌詞にある、≪小さい時には青い服、大きくなったら赤い服≫には、「おしゃれだね」とまたまた納得の様子です。ボーっと過ごしていたら見落としてしまう、何でもないような体験をたくさん積み重ねていってほしい、とつくづく思うのです。

 後日談―

 長女にこの原稿を見せると、娘は「私も男の子のように思っていた」と言いました。私はビックリ仰天しました。娘は「空の色はしょっちゅう変わるし、ふしぎな空色の種やから、元の色は何色かなぁと思っていた」と言うのです。「そんなこと、私に言わなかったやないの」と言うと、「何色かなぁ、といつも楽しんでいたんよ」と言われてしまいました。もしかして、男子たちもそんな思いだったのかなぁ……。

  絵本を通して想像の世界はぐーっと広がっているようです。でも誰もその世界を目で見ることはできません。子どもたちの想像の世界を見守り、大切にしていきたいと思います。
(はっとり・せつこ)

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