たましいをゆさぶる子どもの本の世界

 

「絵本フォーラム」第126号・2019.09.10
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トウモロコシ3人組ののぞみは、おいしく食べてもらうこと。
だから、男前になる?

『よっ!おとこまえ』(絵本塾出版)

 

よっ!おとこまえ 長い梅雨寒が去ると打って変わって酷い暑さで、大型台風まで追随する。そんな不順な気候に、ぼくのからだは正直に反応する。酷暑に茹だる。 地球規模の異様な気候変動に直面する世界。1995年、ベルリンで先進諸国は危機を共有して気候変動枠組条約国会議をはじめて開催する。あれから24年経つ。以降、会議は毎年開催されて温室効果ガス抑制の枠組みを策定する。しかし、大国のエゴがそぞろ闊歩し、その進捗はノロノロと。まるで牛の歩みだ。かくして、ぼくの夏は、我慢の夏である。

 我慢の夏、年中変わらぬ4時半起床の早朝散歩で一汗かく。格段の用向きなければ、午前は資料整理や読書で過ごす。昼寝をはさみ午後も午前の延長がもっぱらだが、ときに図書館や書店をぶらつき、ときに映画鑑賞、ときに夏の味覚を味わう。夜は短く過ごす。軽い晩酌に、家人とテレビなど観て、9時半には就寝。ぼくの夏の日常はこんなものだ。

  で、夏の味覚である。酷暑にそうめんは欠かせないが、茹だる気分を爽快にしてくれる西瓜を、ぼくは一の好物とする。ある調査データでも西瓜は夏の味覚のトップだ。上位15位までに、トマト・トウモロコシ・枝豆・きゅうり・なす・うなぎ・もも・ゴーヤ・オクラ・みょうが・ぶどう・メロン・ピーマン・あゆがならぶ。なんと魚類2種に肉類なし。面白いではないか。

 ヒトのからだがほしがる夏の味覚は野菜果物ばかりなり。なるほどと思う。子どもだけならどうなるか。きっとトウモロコシがトップになるのではないかと思う。なにしろ、夏休みの映画館は大きな紙コップを手にした子どもたちでいっぱいで、その中身はポップコーンなのだ。

 絵本『よっ、おとこまえ!』は、元気いっぱいのトウモロコシ3人組を活写するナンセンスな小話。粗けずりではあるが、大胆そぼくな展開で面白い。

 主人公3人組の一番ののぞみはみんなにおいしく食べてもらうこと。そのために料理の上手な男前にならなければ、のぞみを果たせない。そこで3人組はそれぞれ自分を材料にトウモロコシ料理に挑戦する。

 自分を材料に?、自分を食べてもらう?、そんなことってないだろう。ナンセンスと言うか言わぬか。ウーンとうなるしかない。

  まず、アンディは塩をふったお湯にとびこみ、ゆでゆで、ゆでられて。つづくカルロスはからだに醤油を塗りつけてこんろに飛び乗り、焼かれてゆく、最後はあにき分のジョーの番。自分のからだから実をつぎつぎにもぎ取ると、油でたぎるフライパンにどんどん投げ込んでゆく。こうして、3人3様のおいしいトウモロコシ料理のできあがり。3人組はみごとに男前になる、というおはなしだ。

 テンポよく歯切れよいテキストにパワフルな絵づくりが目を奪い、ナンセンスなひびきが感じる心をずんずんと刺激する。 とてもシンプルで素朴な絵本であるけれど、ゆきつもどりつ読み込むにつれて、ぼくは想う。作者の意図はどうであれ、生きることのすばらしさをこの物語は語っているのではないかと。生き物の生は一回生である。生の誕生は死への旅立ちだ。その旅をどのように生きるか。それぞれが、持てる力の限りをつくして生きぬくことの大切さを語っていないか、尊さを語っていないか、と、ぼくは深読みしている。

(『よっ、おとこまえ!』いがらしあつし=さく 絵本塾出版)

 

 

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