こども歳時記

〜絵本フォーラム127号(2019年11.10)より〜

自分のための絵本   (北 素子)

きた もとこ 金融庁が発表した 「95歳まで生きるには夫婦で約2000万円の蓄えが必要である」とする老後資金報告書に批判が相次ぎ、公的年金制度に対する不満や、先行きへの不安が国民の問に広がりました。 この数字についてはともかく、我が国は人生100年時代に向けてすでに動き出しています。

 学校教育を終え、就職し、家庭を持ち、定年まで勤めあげ、年金を頼りに暮らしてい人生を考える時代ではなくなりました。 進学、就職、結婚、子どもをもっかどうかも最終的には個人が選択できる時代へ。”正解”も”ゴール”もないのですから。わたしたちは100歳という数字を前に、どのように生きていけぱいいのでしよう。

  「人生とは」 「幸せとは」 「生きることの意味とは」…。書店には、人生論、哲学、倫理学についての書籍がたくさん並んでいます。 しかし、絵本や児童文学作品を存分に味わったことのある人なら、絵本や児童書にこそ、人生の大切なことが描かれていることをご存じでしょう。

 『神の道化師』 (ほるぷ出版)は、そんな一冊だと思います。 主人公のジョバンニは、みなし子で一文無しでしたが、いつも幸せでした。 なぜなら、何でも空中に投げてお手玉のように回すことができる得意技で、人々を喜ぱせることができたから。 旅芸人の一行に入ると道化の化粧をして芸をする彼の名は広く知れ渡り、 やがて独り立ちするまでに。ところが年月の流れとともに、年老いた彼の芸は飽きられ、芸のうでは落ちてきました。ある日芸を失敗したことで、人々に笑われ、ひどい仕打ちを受けて命からがら逃げ出します。きっぱりと芸をあきらめ故郷に戻ったジョバン二は、クリスマス・イブの日、寒さをしのぐために教会にもぐりこんで一眠り。目を覚ますと、イエスの降誕を祝う歌声が響き、捧げものをする人々が列
をなしていました。 人々が帰り一人になると、イエスを抱くマリア像を前にこう言いました。《わたしも なにか おささげするものがあれぱとおもうんですがね。 あなたのお子さんは、こんなに どっさり すばらしいおくりものをおうけになっても、まだ、ひどくかなしそうにみえますぜ。 そうだ、ちょいとまっててくださいよ。わたしはひとをよろこぱせるのは、お手のものだったんでさ》

 そして、持っていた袋から衣装や小物を出して芸をしました。 それはこれまでにないほど見事な芸でした。 そして彼は ...... 。 そこで起こつた奇跡は ...... 。

 フランスに伝わる古い民話をもとにしたこのお話。人生を考えることは、悠久の歴史課題なのでしょう。

 人は様々な体験を通して、日々変化していきます。 一生で直接体験できることは限られているからこそ、問接体験でイメージする力をもっことが『 人生の豊かさにつながるはず。
人生100年時代を生きていく楽しみとして、自分のために絵本を読むのも、いいですよね。
(きた・もとこ)



神の道化師

『神の道化師』
トミー・デ・パオラ /さく・え、
ゆあさ ふみえ /やく、ほるぷ出版)


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