えほん育児日記

   
我が家の子育ては・・・


~絵本フォーラム第129号(2020年03.10)より~  第5回

ちーくんに絵本を読んだら1 わたしの3人目の子は、男の子です。ここでは〝ちーくん〟と呼ぶことにします。  

 ちーくんが生まれてくるとわかった時、わたしは心に決めた事があります。とにかく3人の子育てを、思いっきり楽しもう! 少しくらい家がちらかっても、子育てが思うようにいかなくても、小さい事は気にしない。家族がみんな元気で、笑って毎日を過ごせる事を、いちばん大切にしようと思いました。

 ちーくんが生まれた時、お姉ちゃんは小学校2年生、お兄ちゃんは幼稚園年長でした。2人とも新しい弟が来たことを、とても喜んでくれました。学校や幼稚園から帰って来ると、いちばんにちーくんのところにかけつけて、おしゃべりしたり、おもちゃで遊んだり、そばを離れませんでした。とてもにぎやかだったのが、静かになったので見に行くと、眠ったちーくんを囲んで、じいっと見つめている事もありました。

 子どもが3人になり、わたしは今まで以上に、子ども達に絵本を読むようになりました。ただ、お姉ちゃんとお兄ちゃんに読む事が多く、赤ちゃんのちーくんだけに読む事は、あまりなかったように思います。 ちーくんに絵本を読んだら2

 その頃、絵本は夜寝る前に読んでいました。ある夜、みんなで布団に入るとお姉ちゃんが 「ちーくん絵本読んであげる!」と言いました。お姉ちゃんはボードブックの『はらぺこあおむし』(エリック・カール/さく、もりひさし/やく、偕成社)を、楽しそうに読みました。ちーくんはお姉ちゃんの顔と絵本を見ながら、とても嬉しそうでした。お姉ちゃんが笑うと ちーくんも声をあげていっしょに笑いました。この時ちーくんは2か月でした。言葉の意味もまだわからない小さな赤ちゃんが、こんなに絵本を楽しんでいる事に、わたしはショックを受けました。そして読んでいるお姉ちゃんの方は、「ちーくんに絵本がわかるかな?」などと、まるで思っていないのです。ただ、自分が好きな絵本を、大好きな弟に読んでやりたい、それだけの気持ちなのでした。

 わたしは今までこんなふうに、子どもに絵本を読んだ事があったでしょうか? 心のどこかで、「この子にわかるのかな?」と思ったり、子どもがちゃんと聞いているのか、気になったり……。絵本を読んだら、賢くなるかも、本好きの子になるかも! とさえ思っていたのでした。わたしは自分が恥ずかしくなりました。

  『しろくまちゃんのホットケーキ』(わかやまけん/作、こぐま社)は、ちーくんが2〜4歳頃、いちばんのお気に入りでした。夜、絵本を読む時間になり、「今日は何を読もうか」と言うと、ちーくんはいつもこの本を持ってきました。毎日毎日、何回読んだかわかりません。何回読んでもちーくんは飽きずに、いつも目を大きくして聞いていました。

 そのうちにちーくんは、絵本を全部覚えてしまいました。まだ字を読めないのに、ページをめくりながら、1字1句間違えずに、まるで読んでいるようにお話するのです。そしてその言い方は、わたしの読み方そっくりでした。

 ちーくんは毎日わたしが読むのを、どれほど一生懸命に聞いていたのでしょう。時にはわたしは疲れていて、いい加減に読んだり、全く心のこもらない読み方をしたりした日もあったのでした。そんな時でも、心と体全部で聞いていたのだと、わたしは嬉しい気持ちを通り越して、申し訳ないような気持ちになりました。

 わたし達大人が思うよりも、子どもにとって、お母さんやお家の人が絵本を読んでくれるのは、嬉しい事なのかもしれません。きっとむずかしい事は何もいらないのです。いつもそばにいてくれる人の声に包まれるだけで、子どもは幸せを感じているのではないでしょうか。体をくっつけて絵本を読んでいた時の、子どもの体温を思い出しながら、今わたしはそんなふうに思うのです。
(たさき・きょうこ)

前へ | つづく
えほん育児日記