私の絵本体験記
「絵本フォーラム」48号(2006年09.10)より
「親子の幸せな時間がめぐる」
田部聡さん(兵庫県加古郡)

  遠い昔の記憶に映る夏の昼下がり。太陽をたっぷり浴びて遊んだ身体はけだるくて、肌をなでる風が心地よかった。絵本を読んでもらっていたのは、そんな昼寝の時間。母の声に誘われるように、絵本の世界に入り込んでいった。ずっとずっと聞いていようと思いながら……いつの間にかそれは、夢の中の物語へと変わってしまう。

  小さいころの記憶が薄らいでいく中、たくさんの本を読んでもらった印象が強い。恐らく、それがきっかけで「本好き」になったのだろう。そして、本は魔法の翼のように、心の世界を広げてくれた。

  だからこそ、初めての子どもができたとき、本だけは好きなだけ読んであげようと思った。保育士だった妻の持っていた絵本に加え、今では「めだかコース」から「うさぎコース」までの本がそろう。ちょっとした絵本コーナーができているが、これからも長男の成長に合わせてふえていくことだろう。読み聞かせのときは、子どもの気に入った本を何回でも繰り返し読んでいる。物語が暗記できるころには、すっかり同じ世界を共有していて、そこから生活の中での発見や会話に展開していくのが楽しい。

  眠る前の静かな時間、腕枕をしながらページをめくる大切な時間。子どもたちの記憶に、それが幸せな時間として刻まれてほしい。そして次の世代にも、そのまた次の世代にも、ずっとめぐりゆく親子の幸せな時間であってほしい。22世紀(!)にも、絵本が親子をつなぐ大切な役割を果たし続けることを願って。

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