リレー

「子どもたちの広くて深い世界を感じて」
(兵庫・家庭科講師・光宮 裕子)


 
 教育実習で小学校1年生のクラスを担当しました。その中で“あんぜんたんけん”という社会の授業をしたときのことが今も心に深く残っています。
  校門を出て、右に真っすぐ真っすぐ進みます。途中、小さな横断歩道が幾つかありました。踏切の手前で少し戻って、今度は大きな道路にある大きな横断歩道を渡りました。そして、左のほうに真っすぐ真っすぐ歩くと、歩道橋がありました。それを上って反対側に下りたとき、子どもたちが「すごーい! 遠くまで来たね」と言っているのです。担任の先生と私たち実習生はびっくりして、思わず目と目で笑ってしまいました。実は、今子どもたちが立っているのは、校門とは大きな道路を挟んだ向かい側だったのです。
  自分の身長より背の高い車がたくさん行き交う道路の向こうは、子どもたちの目には見えない世界。標識を見つけると立ちどまって見上げ、紙にチェックし、虫を見ると目で追って、道端の花にそおっと顔を近づけてにおいをかぎ、ほほえんで歩いていく子どもたち。きっと、すごく遠くまで歩いたように感じたのでしょう。
  家庭科の授業の中でそんな子どもたちの様子を話しているとき、みんなの目は真剣でキラキラしていて、子どもたちの様子を素直に受けとめてくれているのが伝わります。これから社会に出て、やがて親となり子どもを育てる彼らが、子どもの心を素直に受けとめ、子どもにかかわる何事も子どもの目の高さでも見られる大人となってくれることを願い、保育を通して伝えていきたいと思っています。私自身も、子どもたちが見ている広くて深い世界を見ることのできる素直な心をいつまでも持ち続けながら。

絵本フォーラム50号(2007年01.10)より

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