私の絵本体験記
「絵本フォーラム」53号(2007年07.10)より
「 絵本が父子の仲立ちに」
中村 利奈 さん( 神奈川県大和市 )

 私が絵本をしっかり読み始めたのは子どもが8ヶ月の頃でした。森先生の絵本講座を聴き、「これは読まなくては」と慌てて、でも楽しんで絵本を買い集めたことを覚えています。その当時も子どもはそれなりに聞いてはいましたが、自分から何冊も持ってくるようになったのは1歳半の頃からでしょうか。その頃、夫が足を骨折し、ギプスをはめて家で寝ていた時期がありました。毎日毎日、会社にも行かずソファーで寝ている父親。「これは遊んでもらわなくては!」と思ったのかわかりませんが、子どももいそいそと近づいていきます。でも椅子に座るのもやっとの状態ですから、遊べるはずもありません。そこでわが子は考えました。「絵本だ!」と(と思ったに違いないと母は見ております)。それから連日の絵本攻めが始まりました。家にあるだけの絵本を(当時は 30冊強でしょうか)、ソファの側のテーブルに積み上げては片っ端から読んでもらっていました。

 思えば、当時の父子の関係は非常に薄いものでした。仕事が忙しく休日も少ない夫、元来赤ちゃんの相手が苦手だったことも手伝い、お風呂に入れたのは一回きり、おむつだって2?3回替えたかどうかというところでした。当然子どもはママっ子になり、父親がいても私がいなければ大泣き、外で抱っこして泣かれようものなら、見知らぬ人にさらわれたかのように見えるほどでした。私にとっても、子育てがひどく負担に感じる日が多々ありました。

 そんな二人の関係が、絵本を仲立ちにして日々ぐんぐん近づいていきました。「お、しろくまちゃんと同じの食べてるな」「父ちゃんが元気になったら三輪車ではらっぱのおやまに行こうな」絵本を読んでいないときも通じ合っているのがわかります。その目に見える二人の変化に、側で見ていた私は本当に驚かされました。そしてその光景がとても幸せに思えました。夫が復帰するまでの一ヶ月強の間、昼夜を問わず絵本タイムは夫の仕事になっていました。そして復帰してからもずっと、読める日は読んでくれています。

 子育ては決して独りで出来るものではありません。でも今は一人でないと心から思えます。しんどいことを上手に伝えられなかった私を、絵本が助けてくれました。親子三人、楽しく過ごせる日々があるのは、あのときの絵本のおかげだと心から思っています。

 「今日は何あったから何読む?」これが3才を過ぎた息子の最近のお決まりのセリフです。雨降りだったから『しずくのぼうけん』、砂場で遊んだから『どろだんごつくろ』、自分の今日の一日を振り返れるようなものが、今のお気に入りのようです。『ほるぷこども図書館』のバラエティに富んだラインナップにとても助けられています。

  これからも親子三人、共に絵本を読みながら同じ感動を分かち合っていけたらいいな…そう望む幸せを絵本にもらい感謝しています。
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