こども歳時記
〜絵本フォーラム第54号(2007年09.10)より〜
子どもと共通のアンテナを持つ  

 わが家のベランダから見える公園には、見上げんばかりの大イチョウの木立があります。
  4月半ばに芽吹いた葉を揺らす梢は、夏の間涼しい木陰を作ってくれました。これからの季節には、落ち葉が辺り一面に黄色いじゅうたんを敷き詰めてくれることでしょう。

 すてきなお話を伺いました。知人が家族で六甲山へハイキングに出掛けたとき、3歳になったばかりの息子さんが「ぼく、のぼっちゃう」と太い木の幹にしがみついたそうです。
  突然の行動に一同唖然! しかし、お母さんはピンときたのです。 2・3週間前、読み聞かせ会で読んでもらった絵本『のぼっちゃう』(八木田宜子/さく・太田大八/え・文化出版局)のことだと。
  そして、絵本の場面を思い起こして「そうだね、のぼっちゃうねぇ」と見守ったそうです。きっと男の子は木にしがみつきながら、心の中では東京タワーより高く登って、木の上から飛行機に手を振っていたことでしょう。
  幼い子ども時代に空高く飛ぶ飛行機を見上げ、乗りたいなぁ、どうやって乗るのかなぁと、あれこれ思いをめぐらしたことを私は思い出しました。子どもは限りない空想の世界を持っていることを、絵本は私たち大人に気付かせてくれるのです。
さらに、子どもの空想の芽を摘み取ることなく、見守ってやるのが大人の務めだということにも気付かせてくれるのです。


『のぼっちゃう』
(文化出版社)
親子の絆は強くではなく深く…

『Q&Aこころの子育て』
(朝日新聞社)
  

 7月に逝去された河合隼雄さんの著書に『Q&A こころの子育て—誕生から思春期までの48章—』(朝日新聞社)という本があります。
  この本の中で、親子の絆について、著者は〈絆は強めるよりも深めることが大事やと思います。 (中略)絆の糸を長くして、ずっと深めていくのが理想なんです〉と述べています。
  そして、絆の糸を短く強めれば、それは相手をコントロールしているだけになってしまうのだそうです。
  お稽古事、学力向上、ゲーム・ケータイ等の電子メディアなどの子どもに関する情報は溢れています。子どもの将来をよりよくしてやりたいと願う余り、お母さんたちの声掛けは「あれはしたの? 早くしなさい」などと一方通行になりがちではないですか。
  子どもからの問いかけを「ちょっと待って」と後回しにしていると、子どもは話しかけるのをあきらめてしまうかもしれません。どんな時間を親子で過ごしたかなと一日を振り返ったとき、一方通行ばかりでは寂しいですよね。
  そんなときこそ、絵本を仲立ちにして大人から子どものこころに寄り添ってみませんか。
  親子で一緒に絵本を読んでいると、親子でピンとくる会話が増えていきます。そんな日常の何気ない共通の話題や感情の積み重ねが、親子の絆を深めてくれるのではないでしょうか。

 また、「思春期までに親としてやっておくべきことは?」という問いに、著者は〈お金には換算できないような、計測不可能なところでどれだけ子どもとつきあってきたかです。「ああ、おもしろかった!」という体験を親子でどれくらいしてきたか。それはお金で買えるものじゃありませんから〉と答えています。
  家庭での読み聞かせを通してのこころ揺さぶる体験や、ピンとくる会話、母(父)の優しい声に包まれて眠る安心感は、その一つではないかと思います。

 もう秋はすぐそこまで来ています。秋の夜長に、家族で絵本を囲んで、こころ通わす温かな時間を過ごしてみませんか。

(おかべ・まさこ)


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