私の絵本体験記
「絵本フォーラム」60号(2008年09.10)より
「思い出の一冊の絵本」
武田 美保さん (兵庫県西宮市)

 私が幼い頃、母に絵本を読んでもらっていた記憶がかすかに残っています。大好きだった絵本のこと、そして絵本と共に母との思い出が、今私の心をあたたかくしてくれます。それは息子が生まれて再び絵本に出会えたからだと思うのです。

息子が生まれてまもなく、私は松谷みよ子さんの絵本「いないいないばあ」に出会いました。その日から一年近く、ほぼ毎日読み続けたのです。

2ヶ月の頃、ようやく目がみえるようになった息子のとなりに寝転んで読みながら、時々見せてくれる笑顔に、幸せを感じていました。おすわりができる頃、おひざに抱いていっしょにページをめくりながら読みました。「ばあ」の場面が出てくるのを、息子はとっても楽しみに待っていました。10ヶ月の頃には、ひとりで何度も開いては閉じて遊んでいるうちに、あちらこちらが破れはじめ、テープを貼りながら読みました。そして1才を過ぎ歩けるようになった頃から、『いないいないばあ』の遊びが始まり、カーテンに隠れては私が声をかけるのを待っているのです。そして「いないいない・・・」と言うと、それはもう嬉しそうに「ばあ」と笑いながら出てきてはまた隠れるのです。楽しくはしゃぐ息子の頭の上にカーテンが落ちてくるのではないかととてもハラハラしたことを思い出します。1冊の絵本と共に成長していく息子のすがたに驚きと喜びを感じ、1冊の絵本が私たち親子を育て、つないでくれていたのだと思います。

 まだまだひとりで読むことより読んでもらうことの好きな息子と、絵本を通して、いつまでもつながっていたいと思います。そして心をあたたかくしてくれる時間を過ごすことができれば、幸せです。

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