絵本のちから 過本の可能性
「絵本フォーラム」63号・2009.03.10

山里からの報告 2
子どもたちへの焦点をずらさず
稲垣 勇一(長野県上田市)

〈「まほうのランプ」の活動〉

 この報告を書き始めているいまも、迷いは終わっていない。
 前回、上田地方の絵本に関する活動の全体像報告を、いつかしなければと書いた。その後多少の資料も集めてみたが、他の地域のそれと大差は多分ない。また、手元にある情報が、全体像と呼べるほど広範囲なものではないし、ひとつひとつの活動の現状確認も、まだ十分でない。その報告にどれだけの意味があるのか。  むしろいまは、ひとつのグループの活動を紙面の許す限りくわしく報告し、問題を提起することの方が、私としては意味のある報告ができるのではないか。迷いながらそう考えて、以下我尽な報告をさせていただく。

上田の市街地に、全校で16学級の中規模校といっていい城下小学校がある。市中心部からは千曲川によって隔てられ、古くから独自の落ちついた雰囲気を持つ地域を学区にしている。その小学校のPTA文化部内のサークルのひとつが、「まほうのランプ」である。

 本年度、4月から12月までの主な活動を中心にしながら、できるだけ具体的に触れていきたい。本年度メンバーは、会員・準会員をふくめて45名。会員は現PTA会員であり、準会員はかつて「まほうのランプ」に所属し、現在は子どもが小学校を卒業してしまっている者が中心で、会員の活動に参加したり、サポートしたりしているメンバーである。準会員のなかには、活動の趣旨に賛同する前会員以外の者もいて、この準会員の存在が、PTAの活動としては異色であり、会の大きな特色のひとつといえる。また、準会員ではないが、前会員がさまざまな形で活動にかかわったり、陰の支えになったりしている。

 会の活動は大きく三つに分けることができる。

一、絵本を中心とした読みの活動

 5月12日から始めて12月22日まで。月平均2回。16学級すべてで読みを行なう。学年・学級の行事の都合から、16学級一律とはならないが、延べ183回。そこへ三学期が入るので年間は200回を優に越えることになる。

 種類は、昔話の語り・10回、パネルシアター・3回、紙芝居・3回の外は、すべて絵本の読みである。絵本は異学級・異学年での多少の重なりはあるが、ほとんど毎回別な作品が読まれる。季節や学級・学年・学校の行事への配慮をしながら選書は行なわれているが、読み手独自の判断による物語絵本はどうしても中心になる。

 選書で、ずっといい続けてきたことがある。それは学級担任との連携である。学級の指導計画や子どもの興味・関心の実態を、担任とできるだけ打ち合わせながら、子どもたちの心に深く染み入る作品を選ぶことがベストだと考える。

 私の周囲には、選書について
 
「わたしは、わたしの楽しみで子どもたちに本を読んでやっている。自分の好みのものでなければ、読む気にならない」という類いのことを高言する人が何人かいる。苦笑しながら、時にはきっぱりと「読み手の楽しみの道具にされたのでは、子どもたちはいい面の皮だ」という。

 「まほうのランプ」では、子どもたちの現状に焦点を合わせ、今の彼らにとってその絵本はどう位置づくのかを考えることを抜いて、選書は成り立たないことを繰り返し確認する。現実には難しい点も多いが、そうすることで、より子どもたちの心に近づき、作品世界のゆたかさを彼らと共有できる。そればかりではない。そうすることで自分の作品鑑賞の欠けている部分を補われたり、子どもたちの読みの深さに感心させられたりして、読み手自身の感性が磨かれていくことを実感する。楽しいといえばそれが楽しい。

 学級担任と連携をとるもうひとつの意味は、担任を本読みの世界に引き入れることにある。上田市の現状では、私の知る限り、選書を読み手に一任する担任がほとんどである。「絵本のことはよく分からないから」といい、読みの時間はその場を外してそこにいない担任も結構多い。もちろん、連携の主目的はそれではないが、読み手が連携の姿勢をとり続けることで、両者に絵本と子どもへのより深いかかわりが生まれる。

 事実、城下小学校では担任の理解・協力が年々高まっているのを実感する。ここの場合、学校図書館司書の働きかけを特記しておく必要があろう。会員と話し合い相談にのるという過程で

 〇学校図書館に、「まほうのランプ」コーナーを特設。読まれた絵本は即日そのコーナーに置かれ、他の学級児童に直接間接に紹介される。

 〇読み手の掲示コーナーがあり、会員の子どもたちへの連絡やコメント等、子どもと会員とのつながりの場が設けられている。

 〇会員が希望する絵本が購入される。

 〇学校図書館の絵本を、児童と同様手続きで会員にも貸し出される。

 〇会員が市立図書館から借りた絵本のたくさん入った篭を、自由に学級や学校図書館に持ち込み、そのことで会員や子どもたちの市立図書館利用が増える。

 〇教頭・司書を囲む絵本の勉強会、交流会を持つ。

 等が、温かなふんいきで当然のように行なわれ、会員の学校への感謝と信頼度は高い。もちろん、担任全員が前向きとはいえないし、年度毎の教員移動で、新任の教員のなかには当初違和感を持つ者もある。しかし、大勢は会員の活動を支持し受け入れて、むしろ積極的にかかわり、指導的役割りを果たす教員も多い。

二、群読公演の活動

 絵本の読みの活動が日常的継続的なものであり、会の中心であるのに対して、群読公演は年1回のイベント的な活動である。この概要は前回の報告に触れたので、繰り返えさない。ただ、すべてを子どもたちに焦点を合わせることについては、絵本の読みとぴったり重なる。ひとつだけ小学3年生女子の感想を載せる。

 今年のぐんどくは、わたしのお母さんが出ることになったので、日曜や土曜や月曜日にはぐんどくのれんしゅうを夜おそくまでやっているので、遊んでもらえなくて少しさみしかったです。わたしはきのうのぐんどくのリハーサルを見た時よりもぐっとじょうずにやっていてすごかったです。

 お母さんの言った
 
「そのくせやく人がきたりすりゃあ、手のひらを返したようにペコペコしてまるで米つきバッタだ」というのが、バカにしているかんじがつたわってきました。
 
「さすがにげんばのじょうだ。ありがてえことだ」のところが、ほんとうにありがとうというようにしているかんじがよくつたわって来て、わたしはすごいなと思いました。
 来年もお母さんに出てもらいたいです。

三、その他の活動(箇条書きに)

 1、月例会年3回。スキルアップに会員交流を兼ねた会員同士による勉強会。

 2、勉強会年3回。中心になる話題提供者を軸に、基本から応用までみっち 

   り勉強する。ときにより、外部から講師も。

 3、研修会年1回。今年は軽井沢の絵本館・おもちゃ館へ研修旅行。

 4、交流会年2回。今年初めて読書ボランティアの交流会が発足。10月・12月。特に12月の発表交流会は200名を越す観客があり、盛会であった。

 5、地域イベントの参加年2回。

 6、子どもといっしょの新年会。文集作り。

 「まほうのランプ」の活動について、結局今年だけのものの報告に終わった。 実はここへ来るまで20年の長く複雑で、しかし、母親たちの目を見張るよう   な力にあふれた活動の歴史がある。それこそが絵本を読む会の活動報告なのかとも思う。群読公演など、子どもたちといっしょに見ていただければなあ、とも思う。
 さらに、昨年10月に発足した、小さいといってもいい読書ボランティアの交流会が、今年どうなるかも注目していきたい。

(いながき・ゆういち)


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