えほん育児日記
〜絵本フォーラム第64号(2009年05.10)より〜

絵本を読んであげましょう

大長 咲子(「絵本で子育て」センター・はばたきの会副会長)

 花を選ぼうとするとき、店先に並ぶ花の種類の多さに途方に暮れてしまうことがある。自分のために買うときもそうだが、誰かに贈るために選びに行ったときはなおのこと。「あの方は、こんな花が好きだろうか?」「あの人のイメージは、この色ではないか?」と相手のことを思えば思うほどに、何を選んでよいのか困惑してしまう。

 NPO法人「絵本で子育て」センターの顧問である中川正文先生は、現在の絵本の出版(氾濫)状況を「花ざかりの絵本たち」と、形容される。

 10年ほど前、子育てを始めたばかりの私は、そんな百花繚乱の絵本を前に、立ち竦んでいた。「私は子どものために何を選び、何を読めば良いのだろう」と。 そして、これほどまでに咲き乱れる「絵本」とは、いったい何なのだろうか。疑問や悩み、また迷いなどいろいろな思いを持っていた。それらを整理・解消するため、6年前の春「絵本講師・養成講座」を受講し、修了した。

 講座では、私の疑問を解決するような絵本の書誌的な学習だけでなく、子どもが子ども時代を子どもらしく生きることの意味や、親と子が絵本を媒介にして経験を共有し、思いを分かち合い、ともに成長することの大切さなどを学んだ。

 当時、5歳と3歳、1歳の子育て真最中だった私の「子育て」についての考え方にも大きな変化をもたらした。そして何よりも、中川正文先生(当時・大阪国際児童文学館理事長)が講演でお話された「ただの絵本好きのおばさんで終わってはいけない。絵本で子育てするたいせつを伝える人になりなさい」という一言が心の奥底に残った。

 その言葉を胸に、私は「絵本講師」の道を歩みだした。それからは「絵本講師」として公民館、幼稚園、子育てサークルなど様々なところで講座・講演を開催してきた。

 この小文では、そこで見たこと、感じたことを書いてみたい。

 幼い子どもを育てているお母さんたちにとって、今や大きな心の拠り所になっているインターネットの世界。「離乳食を食べてくれない」「機嫌が悪くてなかなか寝つかない。何が原因か皆目分からない」と。

 子育てしていると、日々悩みは尽きない。そんな時にパソコンに向かいキーボードさえ叩けば瞬時に厖大な情報が溢れ出てくる。心強いこと、この上ない。

 しかし、反面その情報の奔流に流されて溺れかかっているようにも見える。講座では最近、よくこんな質問を受ける。「色々な絵本を読んであげたいのに、うちの子は○▲(幼児向け教材のキャラクター)の本しか興味を示さないのですけど」と。

 幼児向けの教材は、親が購入しない限り送ってはこない。ならば、購入するのを一度止めてみては、と提案してみる。すると、ほぼ一様にこんな答えが返ってくる。「でも、みんな購入しているし、トイレ・トレーニングや交通ルールを教えるのには、あれがないとみんな大変だ、と言っていますよ」。

 さて、その「みんな」とは誰なのか。さらに訊いていくと「インターネットで見た」とか「ブログで読んだ」という答えが、とても多いのに驚く。

 顔の見えない「みんな」の意見が重く伸(の)し掛かり、それを必要以上に重視するあまり、目の前にいるわが子にとって、何が本当にたいせつなのかを見失っているように思える。

 また、これも巷(ちまた)に氾濫する「育児マニュアル」の類に、自分の子どもを当てはめて、自らの育児に失格の烙印を押してしまっているお母さんが、なんと多いことだろうか。子どものことを考え、一所懸命なお母さんほど、今の時代しんどい思いをしているような気がする。

 私は、「絵本さえ読んでいれば、万事解決!」とは、毛頭考えていない。子育てが、そんな甘いものでないことは百も承知だ。だけど、一度パソコンを閉じ、テレビを消して、じっくりわが子の目を見つめてほしい。そして、やさしく肌を触れ合わせながら、一緒に絵本を読んでみてはどうだろう。

 情報に翻弄されている現代の子育て。その悩みの解決の糸口は、子どもの目差しの中にこそある、と思っている。(だいちょう・さきこ)

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