こども歳時記

〜絵本フォーラム第64号(2009年05.10)より〜

自然の小さな魔法の奥深さ

 若葉が目にしみる季節になりましたね。次々と芽を出す草花や、日に日に緑濃くなる街路樹を見ていると、改めて自然の巡りの不思議を感じ、粛然とした気持ちになります。子どもと過ごす日々のおかげで、私の中の錆びついていた「センス・オブ・ワンダー」が少しずつ磨かれてきたようです。

 先日の昼下がり、幼稚園の庭で、一筋の飛行機雲が青空にスーッと伸びているのを見て、友人が「飛行機雲が消えないと天気は下り坂、なんだって」と言いました。週間天気予報はずっと晴れマークだったけどなあと思いましたが、その晩、本当に雨が降ったのです。そして、翌朝は爽やかに晴れました。友人と私と子ども達は、「ほんとに降ったねー」と目をきらきらさせて喜び合いました。

 『あしたのてんきははれ?くもり?あめ?』(野坂勇作/さく、根本順吉/監修、福音館書店)は「観天望気」という、雲や風向きや動物の様子を観察して天気を予想する方法を紹介しています。その土地ならではの天気の見方があって、昔から人々は自然との語り合いによって天気を予想してきました。農業や漁業などは、天気が仕事や生活に直接大きく影響するからです。

 私は子どものとき、「あの山が近くに見えたら、天気は下りだよ」と母に教えられてからは、その山の表情がいつも違って見えるようになりました。黒々と迫って近くに見えるときもあれば、青々と茂る木々がはっきりと遠くに見えるときもあるのです。遠足などの前には、祈るような気持ちで眺めました。

 都市生活と天気の関係は薄いかもしれませんが、自分だけの天気予報を発見し、これが当たったときの喜びはひとしおです。自分の足で立って生きているという、ささやかな満足感を得ることができます。

 科学絵本は、知識欲を満たしてくれるだけでなく、物語を通して、さらなる疑問や自然の神秘性に気付かせてくれます。


『あしたのてんきははれ?くもり?あめ?』
(福音館書店)

『子どもが育つ条件』
(岩波新書)
  

 新学期も少し落ち着いてくると、私たち親は、つい、我が子を他の子と比べたり、周りの情報に流されたりして、あせってしまいますよね。子のためによかれと思って先回りしてしまいがちですよね。

 『子どもが育つ条件——家族心理学から考える』(柏木恵子/著、岩波新書)の第5章「子どもも育つ、親も育つ」の中で、《有能な観察学習者である子どもは、口やかましく言われること以上に、親がどうふるまっているか、どう生きているかということを自分のモデルとして学びます。(中略)親自身が、どんなことであれ、自らが成長すべく努力し、精一杯生きている姿をみせることが、子の発達に対して親がなし得ることです。》と親の役割について書いています。

 自然の不思議さに目をみはったり、絵本を読んで様々な感情を呼び覚ましたりすることも、親の成長の一つだと思います。

 また、絵本で拓いた五感は実体験をより豊かにしてくれるので、それらを共有することの積み重ねで、親子間の理解や絆が強まるのではないでしょうか。

 子どもにとっても親にとっても「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと、レイチェル・カーソンはいいます。外で過ごすのが楽しい季節です。大人こそ、絵本タイムで磨いた五感を駆使して、自然の小さな魔法の奥深さを再発見しましょう。そして、親子で感動を分かち合いましょう。

(おかべ・まさこ)


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