私の絵本体験記
「絵本フォーラム」64号(2009年05.10)より
息子と『三びきのやぎのがらがらどん』
松本 光弘さん(静岡県静岡市)

 息子の將(たすく)は絵本が大好きなのですが1冊だけ怖くて開けなくなっている絵本があります。『三びきのやぎのがらがらどん』(福音館書店)です。本棚にあるのも怖いということで別の部屋にしまってありました。無理に読むこともないのでそのままにしていましたが時々、「読んでみる?」と聞いていました。が、やはり怖いようで決して「うん」とは言いませんでした。子どもは絵本を通していろいろな世界を知ったり、時には冒険をしたりするのだろうなと思います。怖がるものを無理に押し付けようとは思いませんが、せっかくの絵本との出会いを失わせたくないなと思い、一つの作戦を考えました。題して〈悪いことをするとトロルが来る〉作戦です。

 日頃からやってはいけないといっていることをした時に「そんなことやってるとトロルがター君のとこに来るよ」と息子に言います。が、しばらくするとまた同じことをすることがありました。その時は、「そんなことやってると」の一言。数回は「じゃ今度だけはトロルがきてもパパ(ママ)が助けてあげる。だけど次は助けてあげられないよ」と言っていました。もちろん怖がらせることが目的ではありません。そして次の段階へ。また同じ悪いことをしました。「トロルが来ちゃうよ。でも、もう助けてあげられないよ。どうする?」。息子は半べそ状態です。その時に、「ター君、やぎのがらがらどんならトロルをやっつけてくれると思うよ。助けてくれるか聞いてみようよ」というと息子は「うん」と答えました。「じゃ、その前に、ちょっと絵本読んでがらがらどんについて調べてみない?」と息子に確認。彼は怖々でしたが「うん、読んでみる」と答えました。そこで、本をしまってある部屋へ一緒に行き、読んでみました。

 作戦は的中し、あれ程怖がっていたのにケタケタ大笑いしています。余程面白かったのか一日で 10回は読んだと思います。

 私の作戦は専門家の方からみればきっと〈邪道〉なのだろうなと思いますし、他の方に勧められるやり方ではないと思います。が、息子が一つの壁を乗り越え〈がらがらどん〉の世界に進めたことが親としてはとてもうれしい出来事でした。(まつもと・みつひろ)

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