こども歳時記

〜絵本フォーラム第66号(2009年09.10)より〜

子どもの心の揺れや安堵を瞳の奧に感じて

 暦の上の秋はもう遠い日に過ぎましたが、まだまだ暑さは残っています。
 もうしばらくすると学校や幼稚園では、秋の行事が行われます。息子の通う幼稚園では、まもなく「芋掘り」遠足があります。わたしの子どものころも、芋掘りは秋のメインイベントでした。蔓を引っ張り、芋が土と一緒に二つも三つも連なって抜けたら大歓声です。

 作業が終わった後、虫の食ったものとかポキッと先の折れたものとかを喜んで持って帰りました。母が「もうちょっと綺麗だとよかったのにねえ」といいながら蒸かしてくれたのも懐かしい思い出です。
 去年、子どもも初めて体験したのですが、たくさんの友達と一緒に「うーん、しょ。うーん、しょ」と大喜びで芋掘りに挑戦していました。そのおかげでしょうか、芋栗なんきんが苦手な息子でしたが、蒸かしたさつま芋は大好物になりました。

 ここは、「あおぞらようちえん」。雨で一週間延期になってしまった芋掘り。園児たちは、芋掘りを想像しながらおおきなお芋を、紙をどんどんつないで描いていきます。それは船になり、恐竜になり、みんなでおいもパーティーの開催です。

 最後は、おならの力で空をとび宇宙旅行。子どもたちのゆたかな空想が愉快に快活に描かれています。色彩は二色でシンプル。無邪気な子どもたちの姿がありありと描かれていて、親子とも大好きな一冊です。
 この絵本は、約 40年前の東京の幼稚園での実話に基づいたお話です。実際、子ども達の描いた絵は縦1・1メートル横5・4メートルにまでなったというから驚きです。 息子もどんどんおおきくなるお芋を見て、笑いながらすっかり「あおぞらようちえん」の園児気分です。


『おおきなおおきなおいも』
(赤羽末吉 /さく・え、福音館書店)

『えほんのせかい こどものせかい』
(松岡享子/著、
日本エディタースクール出版部)
  

 芋掘りを経験して以来、何度読んだことでしょう。 40年前の作品なのに園児が宇宙旅行するなんて、若田宇宙飛行士もびっくりする絵本だとおもいます。
 絵本を読んでいると、情景がまるで過去に実際見たことがあるかのように浮かび上がってきたりします。また、日々の生活の中ではふと絵本の一場面と同じような情況になることがあります。

 子どもは本棚の前に立ち、今日読んでもらう一冊を選んだら「これこれ!これ読んで!」と持ってきます。読んでいると「あー今日の○○ちゃんみたいだねえ」「おんなじだねえ」と気付かされることも度々です。
 《幼い子どもにとって、絵は〈ほんとうのこと〉を意味します。肉眼では見ることのできないものや、現実には起こり得ないことがらも、それが絵で示されると、子どもたちにとっては、それは一つの経験になります。(中略)絵が想像上の出来事に、確固たる現実感を与えるからです。》(同書 39ページ)

 キラキラしたその瞳の奥で子どもたちは実際に体験しているような感覚をおぼえているのですよね。それが実体験をともなっていたらなおさらのこと、想像はふくらむばかりです。
 私は子どもと絵本を読むことで、その時の子どもの心の揺れや安堵を瞳の奥に感じる気がします。
 美味しいものを食べて、いろいろな体験をして、楽しい絵本を読みましょう。暑くても、もう中秋だとおもえば、少しは涼しく感じませんか。

(絵本講師/かとう・みほ)


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