えほん育児日記
〜絵本フォーラム第67号(2009年11.10)より〜

お父さん、お母さんの元気が子どもの生きる源になるはず

北 素子(絵本講師)

 絵本講師という肩書を持つようになって四年になります。聞き慣れないその言葉に「それって何をするの?」と尋ねられることもしばしばです。読み聞かせをしてくれる人?絵本の評論家?「簡単にいえばね、絵本で子育てをするのってとても素敵なことだよっていうことを、子育て中のお母さんや育児に携わっている人に伝える仕事なの。」

 絵本講師になるきっかけはわが子への読み聞かせをしているときに抱いた疑問でした。「たくさんの絵本から、何を選べばいいのかわからない。」「いい本のリストが欲しい。」インターネットの絵本サイトでも、図書館や書店で聞いても、納得のいく答えを聞くことができませんでした。ママ友達とも「絵本って読んだ方がいいんだろうけど、よくわからないよね」といいながら「これなんてかわいいんじゃない?色もきれいだし、言葉も少ないし。」「これ、しかけがあって面白そう」などの基準で選んでいました。しかし、子どもにこれといった反応もなければ、読んでいる私もあまり楽しいと思えなかったのです。

 ところが、繰り返し読んでいた『じゃあじゃあびりびり』(まついのりこ/作 偕成社)に、 9か月になった娘が大きく反応をしたのです。指をさしながら、挿絵の赤ちゃんの顔まねをして声を出しているのです。子どもの反応を得られたことで、「読み聞かせの効果か?」と思った瞬間でした。同時に、絵本ってなんでもいいというわけではないのかもしれない、もっと知りたいと思ったのです。

 そんなとき、たまたま目にした「絵本講師・養成講座」。いざ受講してみると、毎回目からウロコの情報がたくさんありました。しかし、学んだことをわが子の読み聞かせに実践してみても、何かが違うという思いは残っているままでした。

 養成講座の4回目でしたでしょうか、当センター理事長森ゆり子氏の絵本講座を拝聴しました。その中で『いいこってどんなこ?』(ジーン・モデシット/作 ロビン・スポワート/絵 もきかずこ/訳 冨山房)の読み聞かせを聞いて、涙があふれてきました。その本は、うさぎのバニーぼうやが、かあさんうさぎに「ぼくっていいこ?」と無邪気に質問を重ねるという内容です。私はそこに、親の期待にこたえようとして必死でいい子であろうとしていた子どもの頃の自分をみたのです。かあさんうさぎが言う「 いまのバニーが いちばん だいすきなんですもの」。この言葉が、子育てに日々悩んでいる私を認めてくれて、励ましてくれている言葉にも思えたのです。

 この本を買って帰り、2歳の娘に読みました。読みながら、やはり涙で言葉に詰まってしまいました。娘は「お母さん泣いてるの?大丈夫?」と私の頭をなでてくれました。思わず娘を抱きしめると、ふと何かから解放された気がしたのです。娘が「いまのお母さんが一番大好きだ」と言ってくれている気がして。そして、娘の今のままが一番大好きだと心から思えて。

 絵本を子どもに読み聞かせると、情緒豊かに育ち、語彙力の高い頭のいい子になると聞くし、他にもきっと素晴らしい効果があるはず。どんな本を読めばそんな子に育つのか教えてほしい・・・当時の私は、こんな風に思っていたのだと思います。つまり、子どもに本を読むことの本質を全く理解していなかったのです。

 絵本だけではありませんでした。育児全般において、「これをすればこうなるはず」という考えで凝り固まっていたような気がします。栄養のある土に種を植えて、日当たりのいい場所に置き、水をたっぷりやっているのに、なかなか芽を出さないことに苛立ち。ようやく出てきたと思ったら、真っすぐではないからといって矯正を促したり、いろんな養分をふりかけたりして。

 子どもの育つ力を信じてやれなかったし、待つことができなかったし、子どもと自分との違いを楽しむ余裕もなかったし。うまく人に頼ることもできず、いつも焦燥感や不安を感じていて、自分に自信がもてなかったのです。

 しかし、娘と本当の意味で読み聞かせを楽しめるようになってからは、子どもの、「今」を見守っていこうと思えるようになりました。何を感じているのか、考えているのか、子どもからの発信をキャッチするアンテナが敏感に働くようになってきた気がします。そうすると、子育てはとても楽に感じられるようになってきたのです。

 そんなわずかな経験ですが、自分と同じように子育てに奮闘しているお父さん、お母さんに、絵本で子育てをすることの楽しさを伝えていければいいなと思い、絵本講師の活動をしています。

 お母さんたちからよくこんな質問をされます。「絵本って高いから失敗したくないんです。どれがいいか教えて下さい。」「いい本だっていうから買ったけど、全く興味を持ってくれないんです。」「読んでもちゃんと聞いてくれないんです。」・・・私は答えます。「そうですよね。よくわかります。だって私も同じように思っていましたから。でもね・・・」

 絵本を読み聞かせようと必死になるのではなく、その先に見える、子どもの心をよんでみませんか?子どもの心を読めると、わが子の「そのまま」を受け止められるようになり、自分にも笑顔が出てきて元気になれる気がするのです。

 お父さん、お母さんの元気が、子どもの生きる源になるはず。絵本で子育てすることは、その元気を引き出すことに一役かってくれるに違いありませんから。 (きた・もとこ)

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