えほん育児日記
〜絵本フォーラム第68号(2010年01.10)より〜

お父さん、お母さんの元気が子どもの生きる源になるはず

中村 利奈(絵本講師)

 絵本講師として活動を始めてから 4 年目の現在、二人目の出産により主だった活動を一時休止しています。しかし講座という形から離れていても、絵本を通した出会いや気付きが沢山あることを実感する日々です。それらのことについてお話しします。

 息子の通う幼稚園で読み聞かせサークルに所属しているのですが、年に数回、園児に絵本を読みに行きます。その際に、読む前と読んだ後で子ども達の親しみが全く違うことに驚かされます。読み終え教室を去るときに見送りに出てきてくれるのはもちろんのこと、抱きついてきてくれる子もいます。そして皆からのバイバイ攻撃(笑)。普段からよく絵本を読む園なので珍しいことをしたわけではないのですが、とても喜んでくれたことが子どもの身体全体から伝わってきます。

 また、息子( 5 歳)のお友達のお宅で絵本を読んだ時のこと。小4のお兄ちゃんが一番嬉しそうに聞いてくれるのです。数冊読み終えた後は、好きな本の話などを聞かせてくれました。人見知りをする子なのに、と傍で見ていた母親が驚いていたのが印象的でした。

 絵本を読むこと、同じお話の世界を共に旅するということは、お互いの心の垣根をこんなにも簡単に取り除いてくれるのかと改めて感心しました。他人でもこうなのですから、親子で読んで安らぎを生み出さないはずはありません。「読み聞かせが心の絆を強める」ことを再確認させられる出来事が続いています。

 また、転居後 3 年目にして周りに絵本好きが広まりつつあり、嬉しい効果を感じています。我が家に遊びに来てくれたお友達親子は、よく「中村文庫」といって絵本を借りて帰られます。読んでみた感想や「子どもが気に入ったから買っちゃった」などという話を聞くと嬉しくなります。また小学校で読み聞かせの活動をしているお母さんが、お勧め絵本を尋ねてくれることもしばしば。数冊お貸しすると、後日楽しいエピソードをお土産に返却しにきてくれます。自然と絵本選びの話に発展し、「主食とおやつ」の考え方などを数人にお話する機会に恵まれました。前述の読み聞かせサークルでも絵本選びの話から発展し、ミニ講座をさせてもらいました。不思議と活動を休止してからそのような機会が増え、また絵本講座でお話したくなるようなエピソードの引き出しも増えてきています。

 私は絵本講師になってこの方、講師としての自分の存在価値は「講座をしてなんぼ」のものとばかり思っていました。堂々と正論を言える場、聞きたくて来てくれている方の前で話をするものだと考えていました。でもそれは言ってみれば楽をしようとして、周りをないがしろにしていたのですね。実はこんなにも身近に、興味を持ってくれる人、話しを聞いてくれる多くの人たちがいたのですから。

 今の自分にもできることは沢山あるのだと、立ち止まってみて初めて気付きました。原稿を準備し、絵本と参考図書を山ほど抱えて話すことだけが絵本講師ではないのですね。

 この人に出会ってよかった、知り合って子育てが少し楽しくなった、そんな風に思ってもらえることが、自身(絵本講師)の活動の原点なのだと今、改めて感じています。 (なかむら・りな)

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