こども歳時記

〜絵本フォーラム第70号(2010年05.10)より〜

地域の子どもにも温かな何気ない声かけ

 「もう、泣けて泣けてね〜」と主人の母からすすめられた一冊。私も手にとってみた。胸が詰まる、熱くなる。何度も読み返し、数日おいてまた読み返し…。引き込まれるのは文章だけではなく、文字のない絵だけのページを次に送ることができず、じっと見つめてしまう。読み返しては、母が涙でにじんで見えなくなったページはこのページだろうかと思い量る。

 《ぼく》に巻き起こった状況は、できれば避けて通りたいできごとが重なった。幼い《ぼく》にとっては、抱えきれないたいへんなこと。でも、《ぼく》が育っていけたのは《三本足》がいたから…残念なできごとが重なってしまったけど、《ぼく》は決して不幸ではなかったはず。《三本足》との何気ない日常が彼に生きていくことのたいせつさを伝えたのではないだろうか。

 最近、自傷、他害行為を繰り返す大人や子どもまでもが増えてきているといわれています。そして、子どもを虐待死させてしまう親も増えてきています。新聞紙上で目を覆いたくなるような記事を読まない日はないし、記事になるのは氷山の一角だともいわれています。大人も子どもも生き急がされているこのストレス社会において、何が悪いのかと原因を絞りきることは至難の業です。しかし、《ぼく》が生きていけたのは《三本足》との心の交流があったからだと容易に推察できます。

 友人が「自分自身の小さい頃のアタッチメント(愛着行動)がうまくいってなかったと思う」といいます。確かに、彼女の生育歴からするとうなずける部分があります。家庭環境により、どうしても仕方のない状況はあると思います。例えば兄弟が病弱であり、自分自身もまだまだ甘えていたいのに我慢しながら育っている子もいます。子どもにとって必要なのは、全てを受け入れてくれる“もの”です。理想は“おかあさん”であると思いますが、おかあさんに限らず、家族、近所のおじちゃん、おばちゃん、先生、そして友達…心の交流をはかれる人は周りにたくさんいます。抱えきれない状況が巻き起こったときに子どもは、必ず何らかのサインを発信していると思います。そのサインを見逃さず、心に寄り添いたいと思います。もちろん、我が子だけではありません。人は一人では生きてはいけません。子育てするようになり、地域で支え合って、みんなで生きていくものだと痛感しています。地域の子どもにも、温かな何気ない声かけを続けていきたいと思います。悲しいできごとは周りの誰かが気づき、少し手をさしのべれば解決しそうな気がしてなりません。

 新学期が始まり、緊張感も一段落した頃。大人も子どもも、ちょっと休憩していい絵本をたくさん読んで、泣いて笑ってリフレッシュしたいものです。(ますたに・ゆうこ)

舛谷 裕子(絵本講師)


『あの路』
(平凡社)

前へ ☆ 次へ