私の絵本体験記

「絵本フォーラム」77号(2011年07.10)より
絵本が届けてくれたもの
 吉田 佐知子さん (東京都世田谷区)


 我家の本棚に並ぶ色とりどりの絵本…その中には、私が幼い頃に両親が贈ってくれたものもあります。くり返しくり返し読んだ絵本は宝物となり、両親の愛情と共に色褪せることなく、30年以上もの間ずっと本棚に並んでいます。

 そして、私に息子達が生まれ、今は彼らと共にその絵本を楽しんでいます。次男はダウン症をもって生まれてきました。産後の不安と心配でいっぱいだった時に、ふと本棚にあった『いないいないばあ』の絵本を取り、「きっとわからないだろうな…」と思いながら、息子の前に広げ「ばあー」と読んでみました。すると…、明らかに息子の目がパアーッと輝き、ニコッと微笑んだのです。びっくりしました。見てる?笑ってる!?また大きな声で「ばあー」と読むと、ニコッ。その反応が嬉しくて、そして私の顔と絵本を交互に見つめるその目に意思の疎通がはっきりと感じられ、嬉しくて何度も何度も読みました。そうして絵本を共に楽しむようになった私と息子との間に流れ始めた温かな空気は、不安や心配を脇へ押し流し、愛情と笑顔というかけがえのないものを届けてくれました。そして、きっとわからない‥と思ってしまった自分の気持ちを心から恥じました。

それからというもの、息子達との毎日にますます絵本は欠かせない存在となりました。

絵本を通して一緒に笑ったり、涙を流したり…一緒に思い合えるものがあることは、親子の絆を日々深めてくれているように感じています。

 読み聞かせは、子供をぬくもりで包み、そして時にはお母さんの背中をそっと押してくれます。私達に愛情を届けてくれた絵本を、今度は私達がたくさんの親子に届けていきたいと思っています。(よしだ・さちこ)

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