絵本のちから 過本の可能性

「絵本フォーラム」84号・2012.09.10

『絵本講師・養成講座』を受講して
—— 大切なものを見極めるステキな冒険  ——

冨田 啓子(芦屋会場 8期生)

 1969年広島県生まれ、塩で栄えた瀬戸内海の竹原市で育つ。高校生で下宿生活を経験。京都の大学で仏教美術を学ぶ。大阪市内の小学校で図書館ボランティアに参加。個人から地域へ!地域から社会へ!絵本を通した発信で人々の交流を広げたいと活動中。現在、中1、小5の母親。


 「絵本で子育て」センターの名称を一目見て気にいりました。
 なぜなら、毎晩、子ども達に読み聞かせをしていて、自分自身が楽しいと感じていたからです。
 さらに「絵本講師・養成講座」のパンフレットに中川正文先生の推薦の言葉として《花ざかりといわれる絵本を前にして、途方に暮れている私たちですが、その中から何を択ぶか、となると、やっぱり人まかせにしないで、自分が責任をもつべきでしょう。毎日の食材と同じように「心の栄養」としての絵本ですから当然です。世間一般の方々に絵本の択び方や楽しみ方を、直接伝えることの指導者。そういう役割を果す優れた人材を養成する本邦初の独自な試みであり、絵本に寄せる夢の数々を実現するステキな冒険なのです。》と載せてありました。
 私にはこの文の一つ一つが心に響いて、何度も読み返しました。そして、この講座を受けようと心に決めました。

 朝から夕方までの講座ですから、家のこと、子どものことなどこまごまと調整することもありましたが、この講座を受けるのだと決めますと、物事は良い方向へと進んで、受講可能な状態になりました。
 「絵本講師・養成講座」は講演、グループワーク、課題リポートの大きな枠組みで進みます。中川先生の「人任せにしないで自分が責任を持つ」という言葉は、普段の生活においても当り前のことなのですが、他人に任せてしまう方が楽なので、つい受け身側に傾く自分に、このことは特に注意しなくてはいけないと気を引き締めなおしました。
 講座終了後、家に帰って、講師の方が話された内容に関係する書籍などを探して読み、まだ読んだことのない絵本は実際に手にして、声に出して読みました。
 職業、年齢もさまざまな人とのグループワークは、人の数だけ絵本のエピソードや、それぞれの人生があるということ。実際に顔を寄せ合っての話し合いでは、意見の違いにハラハラしたり、思いがけない考えに笑ったり、胸が痛んで涙がポロリとなったりして、人とのつながりの温かさと縁を感じて、貴重な時間でした。

 時代の流れのなか、携帯電話、インターネットなどの普及だけでもずいぶんと便利な世の中になりました。しかし、光あるところに影ありとはよくいったもので、便利さに併走するように問題点も多く生じています。
 その中の一つとして家族、地域社会の結びつきが薄くなるにつれて、子育ての環境が大きく変化してきていることがあげられます。この子育てを支えてくれる大きな味方が絵本です。絵本を通してつながる親子の時間は「心の栄養」の種まきです。共有できる楽しい時間を過ごして、やがて子どもの成長に合わせて種は花を咲かせて影に光を射すサポートをしてくれるでしょう。
 大人にも「心の栄養」は必要です。これからの人生、とびきりの絵本が待っているはずです。それは、もうすでに手にしていて、気が付くだけかもしれません。 私自身、約10年間近く、毎晩、お月様が夜空にやってくるように、夜の絵本の読み聞かせが日常生活の一部でした。今までを振り返ると、子どもを育てながら、私も子どもに育てられてきたのだと思います。ある絵本をひろげると、子どもと一緒に読みながら過ごした時間、思い出がよみがえってくる本もあります。そんな時間がこれからの人生をゆたかに、そして色鮮やかにしてくれることでしょう。

 「本邦初の独自な試み」である「絵本講師・養成講座」は、直接の指導者として、目先の利益にとらわれない広い視野で、目に見えない大切なものを見極められる講師になるステキな冒険です。多くの人との出会いに感謝の気持ちと常に学ぶ心で、日々講師への道を歩んでゆきたいと思います。
                        
                                   (とみた・けいこ)

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