えほん育児日記
〜絵本フォーラム第84号(2012年09.10)より〜

子どもが幸せな社会であってほしい

武田 美保(絵本講師)

 長かった夏休みも終わりを告げ新学期が始まります。私はこの夏休み久しぶりに絵本の整理をしながらいろいろなことを懐かしく思い出しました。

                   *   *   *

 私が「絵本講師・養成講座」を受講したのは5年前のことです。当時息子の小学校で図書ボランティアを始め、お昼休みに図書室に集まってくる子どもたちに絵本を読むことになりました。以前から絵本は好きで息子が生まれてから毎日のように読んでいましたが、小学生に読むのは初めてのことでした。年齢の違う子どもたちにどんな絵本を読んだらよいのか悩み、なかなか絵本に目を向けてくれない子どもたちにさみしさを感じることがありました。絵本についてもっと知りたいと思っていたとき友だちから「絵本講師・養成講座」を紹介されました。受講してみたいという気持ちはあったのですが、どうしても〈リポート〉が頭から離れず踏み切れずにいました。締切りまで後1週間というとき、なんというタイミングでしょう、息子から「お母さんは勉強しなくていいからうらやましいな」と言われ、何も返す言葉がありませんでした。息子の目にはそのように映っているのだということを知り、前向きに取り組んでみようとようやく決心がつきました。

                   *   *   *

 子どもが生まれてから子ども中心の毎日を過ごしていた私にとって、自分のために学ぶ時間はとても新鮮で毎回心を動かされ、学ぶことのたいせつさを教えていただきました。過ぎ去った子どもの頃を思い出しました。幼い頃大好きだった絵本を読み返すと、絵本と共にそのときの情景を思い出し、母は絵本を読んでくれていたのだということに気づき、その絵本を読みながら母のあたたかさを感じました。中川正文先生が読んでくださる『すみれ島』を聴きながら、写真でしか会ったことのない戦争で亡くなった祖父、穏やかでいつもやさしかった祖母の笑顔が目に浮かび、私の知らない時代を生きていた祖父や祖母のことを想うと胸がいっぱいになりました。この講座を受講し、忘れていたたいせつなことに気づかされ、絵本を通して人とのつながりに感謝することができました。そして私自身成長できたことがなによりの喜びでした。

                   *   *   *

 「絵本講師・養成講座」を修了してまもなく芦屋、西宮に在住のメンバーで支部を発足することができました。その支部「絵がお」で企画した芦屋男女共同参画センターの市民企画講座は今年で5年目になります。メンバーのほとんどがこの講座で絵本講師の一歩を踏み出しました。私もその中のひとりです。私の第一歩は講座当日の2ヶ月前から始まりました。最終リポートをもとにテキストを読み返しながら原稿を作り、家事の合間やお風呂の中、電車の中で原稿を覚え、家族を前に何度も練習しました。当日は緊張で声がつまり絵本を持つ手が震えたこと、質問の答えに戸惑ったことなどいろいろ反省することはありましたが無事終えることができたことに感謝しました。
 現在子育て中のかた、これから子育てをするかたにお話をさせていただくことがあります。その中で心あたたまる声を聞かせていただきました。生まれてからではなく早い時期から親子のつながりをもってほしいと、妊娠中からご主人に絵本を読んでもらっていますと話してくださった6ヶ月のお子さんをもつお母さまがいました。マザークラス(妊婦さん対象)では妊婦さんに向けていつも『しろいうさぎとくろいうさぎ』を読んでいます。その時お一人のかたが「お腹の中の子どもがとても大きく動きました。きっと喜んでいるのですね」と話してくださり、私は母子のつながりの強さに感動しました。絵本はひとりで読むのではなくやはり読んでもらうことで心が豊かになり、聞き手にも読み手にもしあわせをもたらしてくれるものだと実感しました。

                   *   *   *

 今、子どもへの虐待、いじめなど悲しいニュースがあふれています。一人ひとりの大人が少しでも優しさを持つことができれば子どもは笑顔になれると思います。一人ひとりの大人がその優しさを持って子どもをみつめることができれば子どもは幸せになれると思います。子どもが幸せな社会であってほしいと願っています。

                    (たけだ・みほ)

前へ  次へ