えほん育児日記

えほん育児日記   えほん育児日記

~絵本フォーラム第85号(2012年11.10)より~  Vol.3

子育ての中でのハードル(障害)について

 「お弁当箱つぎからもっと大きくして、ぜんぜん足りへん」
 10月、運動会が終わって帰宅した長男のひとこと。なかなか気分が乗らないと完食できずにいた息子も、小学生になり成長しているんだなあ、と嬉しく感じました。おにぎりにたまご焼きを一つ入れ、ウインナーにプチトマトを入れたらもうスペースがないという、パズルの組み合わせのような小さな小さな幼児のお弁当から、野菜炒めに唐揚げまで入るひとまわり大きいお弁当箱に買い換えたばかりなのに。成長の証か、食欲の秋のせいかよくわかりませんが、私にとって長男の食欲旺盛は嬉しいことです。

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 つい先日、長男宛てに宅配便が届きました。『大賞おめでとう』のシールが貼ってあり、開けてみると今人気のゲーム機器、『ニン★●ドー3DS』が!! 
 家ではひとことも欲しいと言わない息子が、懸賞広告を見つけてはいそいそとハガキに書いていたらしいのです。懸賞なんて当たらないと思っていたのに、まさか当ってしまうとは……。すぐさま箱の蓋をして子どもにみつからないように隠しました。夜、帰宅した夫と相談し、今はとりあえず必要ないということでこのまましまっておくことになりました。アイスの当たり棒すら出ない長男、かたや常にあたり棒を出す次男。せっかくの『大賞1名』という奇跡を告げられず、ごめんね……。
 その日の夜、息子がタイミングを合わせたかのように「ぼくね、いまDSほしいねん。サンタさんくれるかな」と言うのです。ギクッ! 今までは電子機器はサンタさんの国にはないみたいだよと乗り切ってきたことがもう通じないような気がして、「まだこうちゃん(次男)が小さいし、ゲーム機はこうちゃんがもう少し大きくなってからゆっくり考えたらいいんじゃない? サンタさんへのお願いは違うものにしたら?」と答えた私に「なんでこうだい(次男)はちっさいねん! はよおっきくなって!」と不満げに弟を小突く長男。
 いま子どもたちにとってゲームは必要不可欠なアイテムになっているのでしょうか。
 周りの環境なのか小学生になるとゲームが欲しくなるようで、子育てをしながら、たばこやお酒と違って年齢制限のないゲーム機器にどう向き合うか考えています。ゲーム機器は18歳からとされていたらきっと子どもの遊び環境は変わっていたに違いないと思ったりするのです。長男は教えてもいないのにパソコンも上手に操作します。次男も私の携帯電話を手にすると躊躇なくボタンを押しては摩訶不思議な画面を出し、機械に対してなんて前向きなんだと感心してしまうほどです。我が家のオーディオなど時間合わせすら私は面倒でずっと0時00分なのに。ゲームが100パーセント悪いものではないとは思うのですが、ただ理性がうまく働かない成長期の幼い時は極力与えたくないものだなと感じてしまいます。

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 そんなある日、寝る前に『あのね、サンタの国ではね…』(黒井健、偕成社)を読み終えた後、長男が天井に向かって大きな声で「サンタさーん! 弟が大きくなるあと2年か3年経ったら、そうたはDSほしいです! それまでひとつ置いておいてくださいねー!」とサンタ頼み。素直な姿に一応ほっとしたものの、2〜3年後まだ願いが変わらないのであればしっかりと親子で(夫婦?)相談しながら考えなければなりません。

 もともと年上の男の子の遊びに憧れを抱きがちでお兄さんぽくふるまう長男に対し、同じ男の子でも次男はまだまだ赤ちゃんのようなもの。遊びは基本的に工作など、外ではボール遊び、走ることなどで、言葉もまだ幼児語です。幼稚園から帰宅する時も全速力で走る次男は「とうちょっきゅうで走ってるでー!」と、“超特急”の間違い。「ひろってきたよー。ぶろっこりー」は“まつぼっくり”で、「でんしんばらしにぶつかるー」は“電信柱”、「みみぶたを蚊にかまれた」は“みみたぶ”、「はみばきこがもうないよー」は“歯磨き粉”、「VVD」は“DVD”などなど。可愛さのあまり訂正するのがもったいなく感じたりしています。いつもぺちゃくちゃおしゃべりして、手作りした工作や雑草をお土産に帰宅し「綺麗だねー」と飾る次男。きっとゲームがあったらこの子もやりたくなるんだろうなあと思うと、今は与えるべきではないなと心改めるのです。今回はゲームのことを題材にした日記になりましたが、今私が子育てするうえで通過する一種の障害のようなものに思えるのです。特に上の子がいると、どうしても上の子に合わせがちになります。ゲームを持っていないのは可哀そう、与えたらいい、時間を制限したらいい、という人もいます。でも便利なもの都合のいいものはやはり便利に都合よく使う気がしてしまいます。もっともっとそれ以前に五感を刺激できる遊びをしていってほしいと願うのです。
 
  
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 大阪国際児童文学館・特別顧問であり、NPO法人「絵本で子育て」センター・顧問であった中川正文先生のご逝去から1年がたちました。先生から「君の船はいずこへ」「うしろを振り返らない朝よ」「おかあさんはべんきょうがスキ絵本がスキ」この3つのお言葉のサインをいただきました。力強い文字を今改めて見ると、私の子育てに〈喝〉を入れていただいているような気持ちになります。

                           (かとう・みほ)

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