えほん育児日記えほん育児日記
〜絵本フォーラム第91号(2013年11.10)より〜

新しい「挑戦絵本」で遊ぶ楽しさを教えてくれて感謝!

 『続々 絵本講師の本棚から』

絵本講師の会/編、NPO法人「絵本で子育て」センター

向井チヨ子さんの私と「まる」は大親友。

上甲 知子 (絵本講師)

 「絵本講師やってます」なんて言うと「さぞや絵本に詳しいんでしょう」とか、「いろんな絵本を知っているんでしょう」とか思われるようなのです。私に限って言えば、ごめんなさい、全然そんなことなくて、知らない絵本だらけで、定番と言われる絵本でさえ、読んだことないものもいっぱいあります。
 そんな私が畏れ多くも執筆者の一人として名を連ねている『続々 絵本講師の本棚から』。このなかで紹介されている絵本も、正直に告白すると読んだことのない絵本が半分くらいありました。通勤電車の中で、じっくりじっくり、大切に読み進めていくうちに、読んだこともない絵本が、紹介してくださる絵本講師仲間のつむぐ物語とともに、その空気感をも伴って、わたしの心のなかにしみじみとゆきわたるようでした。絵本とのこんな出会い方もあるのだと思いました。その絵本を読んでもいないのに、その絵本を読んだ人の物語を通して触れていくという快感。その空気感を壊したくないような、だから現実の絵本は読まずに大切にとっておきたいような(それじゃ本末転倒かもしれませんが)、そんな気がしてしまうのです。
 なかでも、向井チヨ子さんが紹介してくださった『まるまるまるのほん』(エルヴェ・テュレ/作、谷川俊太郎/訳、ポプラ社)。本屋さんで見かけてはいました。ぱらぱらと、中身を見てもいました。けれど、「ふうん」と、そのまま棚に戻していた絵本です。あの絵本がこんな世界観をもった絵本だったとは……。
 絵本ってなんだろう?その正体の一つは「コミュニケーションツール」だと、今の私は断言します。絵本を一方的に読み聞かせたって、それは、ただの自己満足。一方通行ではつまらない。絵本を通じて、読み手と聴き手の間で心の交歓をする。相手はたったひとりでも、おおぜいでも。世代を超えて、性別を超えて、国境を越えて。それができるのが「絵本」。
 物語絵本や昔話絵本でも、もちろん心の交歓はできる。この『まるまるまるのほん』は、(読み手にとって、パッと見は物足りないようだけれども)直接的に相手に問いかけ、その反応を受け止めることができる絵本なのでしょうね。
 「いつもは静かに聞くことができる園児の、今月のこの歓声は何なのだ。」「いったい何だろうこの本」と、戸惑いを隠せない向井さんのようすが、なんだか微笑ましいのです。と、言っては失礼でしょうか。
 《ちょっと ゆすってみる?》《ふーって くろを ふきとばせる?》など、絵本の言葉に対する子どもたちの身を乗り出すような歓喜の反応に驚きながらも、新しい絵本の世界に少しずつ馴染もうとしている向井さんの姿が浮かんできて、お会いしたこともないのになんだか私まで、わくわくしてしまうのです。
 静かに集中して物語絵本の世界に入り込むのもいい。けれど、現代のデジタル化の流れに逆らわずに新しい絵本の世界を切り開くこんな絵本を通して、子どもたちに絵本の楽しさを知ってもらう、また逆に教えてもらうというのもいいなあと思うのです。それこそ、向井さんの言う「想像の世界の真剣勝負」なんですよね。その「真剣勝負」を共有する楽しさを知ってしまったらもう、絵本を読むことをやめられませんよね。
 「ウケ狙いの絵本はだめだ」という意見を聞くたびに、ドキッとしてしまうし、反発もしてしまいます。この「真剣勝負」を「ウケ狙い」とは言わないで、って思います。「ウケ狙い」ではなく「新たな挑戦」なんです。
 ロングセラーもいい、ベストセラーも間違いない、でもこんな新しい「挑戦絵本」で遊ぶのも楽しい、きっと。
 本屋さんでぱらぱらめくっただけではわからなかった、『まるまるまるのほん』の魅力を教えてくださった向井さんに感謝します。いつか私も、この絵本で、真剣勝負を挑みたいと思います。アナログなデジタルの世界、おもしろそう。

                                     (じょうこう・ともこ)

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