えほん育児日記えほん育児日記
〜絵本フォーラム第92号(2014年01.10)より〜

編集に携わって思うこと

 『絵本とジャーナリズム』

NPO法人「絵本で子育て」センター


拝むなら自分を拝め、賽銭出すなら自分に渡せ

この言葉の真意を確かめて

大長 咲子 (「絵本で子育て」センター理事)  

 2013年6月22日。NPO法人「絵本で子育て」センターが主催する、「絵本講師・養成講座」の壇上には、98歳でなお第一線でご活躍中のジャーナリスト、むのたけじ氏が立っておられました。むの氏は「幼子(おさなご)・子どもたちの問題について、あるいは絵本の問題について特別に研究をしたこともなければ、仕事を実際にやったこともありません」と正直に告白されながらも、しかし「幼児の問題と絵本の問題と(講演を)頼まれて引き受けたのなら、それをダーッと答えるぞ」と受講者に真摯なまなざしと優しい笑顔を向けられました。
 そして、そこから繰り広げられたのは、「幼子の時代は、人間・人類にとって何を意味するのか」という人生の根幹の部分から人類の歴史を考え、ひいては、どの世代もが手を携えて生きていくことの大切さ「幼少青壮老の五結合」というむの氏独自の考えに基づいたお話でした。また、大人が子どもに向き合う姿勢をどう考えていくべきなのかを、つまりは人間同士が対峙するときの心の在り方についても言及され、むの氏がどんな人とも愛を以て接しておられる姿が浮かび上がってくるのでした。
 さて、「絵本」と「ジャーナリズム」。この一見対極にあるがごとく存在する言葉を題名に持った書籍を、私たちNPO法人「絵本で子育て」センターが出版することになる経緯を少しお話したいと思います。
 「絵本講師・養成講座」は開催から10年を迎えました。この10年「絵本を仲立ちにして、大人と子どもが、ともに楽しみともに学ぶことの大切さ」を伝える「絵本講師」を養成すべく、様々な講師の方々を招き講演をしていただき、学習を重ねてきました。そして、社会が混迷を極める今、子どもを育てるということは大人がきちんと世の中の事象に目を向け、現代社会の問題を自らが考えることが肝要であるということを学んできました。そこで、むの氏にお話を聞かせていただき、氏のものの考え方から、私たちが子育てをする世の中についての問題をひも解いていこうということになりました。
 受講生の中には「絵本のこと、子育てのことを学びにきたのに、なぜ、むの氏が講師なのだろう?」と疑問を持たれた方がいるかもしれません。しかし、むの氏の1時間半を超える力強い講演を聴き終えたときには、会場にいるほぼ全員がこの講座の意義を会得し、「絵本」と「ジャーナリズム」が決してかけ離れた存在ではないことを確認したのでした。そして、この貴重な講演をよりたくさんの方に聞いていただきたい、むの氏の言葉を少しでも多くの方々に伝えたいという思いが溢れだしました。そこでこの「講演録」が誕生することとなったのです。
 ここで、少し打ち明け話をさせてください。講演録を編むに際して、むの氏はその協力と出版を快諾してくださいました。それならば、むの氏の生の迫力が伝わるような、私たちが感動した気持ちがそのまま伝わるような臨場感あふれる講演録に仕上げたいと、かなり意気込んで編集に挑みました。しかし、繰り返し録音を聴きながら字を綴っていく作業は、「むの氏の本意が読者に伝わるのだろうか?」という責任と焦りの連続でした。もちろん編集部のほうで、何度も繰り返し校正をしましたが、出来上がった原稿をむの氏とご子息である武野大策氏が、監修してくださり「せっかく本にするのならば、皆さんが学習するのにふさわしいように」と講演してくださった内容に、更に大幅な加筆をしてくださったことは大変ありがたく、さらに読み応えのある充実した内容に仕上がったことは言うまでもありません。
 さて、世の中を見てみると特定秘密保護法案の成立、武器輸出の条件緩和、原発の早期再稼働と、政府は国益や経済発展の名のもとに、人間の幸福を貶めていくような政策を強引にすすめています。子どもであっても大人であっても、よりよく生きるためには自分がどの方向に進んでいくのかを自分自身で考えていくべき時がいよいよやってきたのではないでしょうか。
 未来を担う子どもたちが幸せにあってほしいと願うならば、むの氏がおっしゃるように人と人とのつながりを根底から考え直していくべきときなのではないでしょうか。『絵本とジャーナリズム』を読んでいただければ、そのことが明らかです。
 よく、本の紹介では「ご一読ください」という言葉が使われますが、本書は二読、三読それ以上に繰り返し読んでいただきたいと思っています。
 では、最後に本書に記されているむの氏の言葉を紹介します。

 ――拝むなら自分を拝め、賽銭出すなら自分に渡せ――

 どうぞページを開いて、この言葉の真意を確かめてください。

                                   (だいちょう・さきこ)

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