えほん育児日記

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~絵本フォーラム第97号(2014年11.10)より~  第3回

美味しい季節 我が家の食卓のしあわせ

わが家  味覚の秋です。買い物をしていて、「この梨甘いかな」「あっ、娘の好きな秋刀魚がやっと並んだ」「そろそろ焼き芋してあげよう」家族の好物に出会う度に、つい口元がほころびます。そして、食卓にあげた時の期待に違わぬ笑顔。手の込んだ料理ではなくても、おいしいねと一緒にいただくことができるしあわせに、心から感謝の気持ちです。

 あれは、子どもたちがいくつの時だったでしょうか。もう、きちんと座って食べられるようになっていたことは確かでしたが、ある日食事の途中でもうお腹が落ち着いてしまったのか、子どもが行儀悪くそばにあったほかのものを触っていたのです。ちょっと声をかけ、たしなめてもまた同じことで、思わず「食べることは生きること。まじめに食べないなら、おしまいにしなさい!」と私はさっさと片付けました。自分がとっさに口にした言葉がちょっと大仰で、自分で驚いて心で何度も繰り返していました。

 長男は生後、乳児湿疹がすっきりしないまま皮膚テストを受けて、『食物アレルギー・アトピー性皮膚炎』の診断を受けました。4ヶ月の頃、よく泣きよく笑い、周りのいろいろなものに関心をしめすようになった赤ちゃんが、私は可愛くてたまりませんでしたが、一方で、肌がどうしてもジュクジュクして真っ赤な顔の赤ちゃんを、お世辞でなく本気で心底可愛いと思うのは私たち夫婦だけかもしれないと、思ったほどでした。

わが家の食卓 離乳食を始めると、赤ちゃんに何を食べさせるか、まだおっぱいをあげていたので私が何を食べるか、それは大きな問題でした。もちろん、食品については掛かりつけの医師の指示のもとですが、具体的にどんなものを選ぶかは私自身の判断です。特別なお取り寄せなどはしませんでしたが、だんだんと添加物の使われていないもの、なるべく農薬の使われていない野菜やくだものなどを選ぶようになりました。するとこれまで「いただきます」と当たり前にいただいていたものが、我が家の台所に届くまで、お店で私の前に並ぶまでにどんな道を通ってきたか、どんな方々の思いが託されているのか、そういったことに思いがはせられるようになりました。たくさんの命やたくさんの方の気持ちをいただけることへの感謝の思いが湧いてきました。知ること、考えることは素晴らしい。子どものアレルギーではずいぶん悩みもしたけれど、今まで無意識でいたことの中から「幸せ」を見つけ気づくこと、それが一番のしあわせでした。

 私にとって、お料理は得意でも苦手というのでもないけれど、仕事を終えての忙しい夕方。「テーブルよ、ご飯の支度!」という魔法は憧れのひとつです。けれど、先輩から「家族のために料理をできるのは幸せよ」といっていただき、今の私には、日中の家の外でのいろいろな出来事に気持ちのけりをつけて、家族の中の私に切り替える、毎日の台所でのひと時はとても貴重なものとなっています。

 今はいつも全部手作りでもないけれど、親子でいっしょに食卓を囲むことのできる生活。今日は、あなたの好きな○○にしたのよ、とさりげなく愛情を伝えられる食卓。そして嬉しい言葉、楽しい言葉が添えられるように、今日も笑顔で母の席につきたいと思います。
(くまだき・かよ)

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