情報紙『絵本フォーラム』で10回連載予定の『ほるぷフォーラム紙上絵本講座』です。

子どもの悲鳴が聴こえますか

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大人にいま必要なことは

 人はよく〈歯車〉にたとえられる。よい意味で使われることはあまりないが…。しかし私は、あえて人を〈歯車〉にたとえてみたいと思う。人は一人では生きていけない。歯車もまた、1枚だけで回っていては、大きなものを動かす力とはなり得ない。私たちの社会も、様々な〈歯車〉がいくつもかみ合わさり、回ることによって動き続けている。しかし最近、その動きに歪みが生じ、ギシギシと悲痛な叫びを上げ始めているのではないだろうか。
 今、犯罪の低年齢化が進み、凶悪な事件にまで及んでしまうケースが増えている。自分の子どもを愛せずに、虐待し、殺してしまうという悲しい事件もよく聞かれる。現代社会において何かが歪み始め、その歪みが急速に大きくなりつつあることに、誰もが漠然とした不安を抱いている。

 この20〜30年の間に起こった急激な変化は、私たちの生活に多大な恩恵をもたらした。しかし、それと同時に、多くのものを奪い去ってしまった。特に、子どもたちの世界から、私たちの想像以上に多くのものが奪われてしまったように思える。子どもが0歳のうちからテレビに子守をさせている親がどれだけ増えただろう。みんながテレビのほうを向き、一言も会話せずに食事をする家庭がどれだけ増えただろう。学校から帰ると、ランドセルを置いてすぐに、塾や習い事に行く子どもがどれだけ増えただろう。

 今、子育てをしている親たちは、この20〜30年の間に子どもから大人へと成長してきた世代である。その過程で、無意識のうちに多くの大切なものを奪われてきた。そして今、自分たちの時以上に多くのものを子どもたちから奪い始めてしまっているのである。この悪循環を断ち切らなければ、社会の〈歯車〉の歪みは大きくなり続け、いつかその動きを止めてしまうだろう。
 子どもたちから奪われた大切なものとは何か。それは、社会生活を営み、様々な知識を身につけていくための基礎、子どもたちが自分の人生をしっかりと歩いていくために必要なすべての根本である〈人と人とのつながり〉そして、その原点にある〈親と子のつながり〉である。
 私たちは今、もう一度その原点を見つめ直し、現代に生きる子どもたちの心に、将来を生きていく子どもたちの心に、そして自分の心に、その〈大切なもの〉を蘇らせなければならない。

 現代社会に必要なものは、歪んでしまった〈歯車〉に油を差し、何とか動き続けるようにすることではない。ましてや、歪んでしまった〈歯車〉を排除することでもない。今、私たちがしなければならないのは、すぐ隣で回っている〈小さな歯車〉と真剣に向き合い、自分と本当にしっかりかみ合っているか、他の歯車としっかりかみ合っているかを確かめてあげること、そして、ほんのわずかな歪みにも気づき、早い段階で直してあげることである。それができるのは、その〈小さな歯車〉の最も身近にいるあなただけなのである。それが今、この時代においてこそ、私たち〈大きな歯車〉の果たす責務なのではないだろうか。

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