グランマからのおくりもの

−第1回−
幼児が絵本に出会うということは


 あかちゃんが目をパッチリと見開いて、手を振ったり、足を上げたり、元気に動いています。まだ、言葉を声に出して語れません。でも、何らかの自分の思いを廻りの人に伝えたくて一生懸命です。
 そう、私にも小さなあかちゃんを両手に抱いて、あかちゃんが何を伝えたがっているのか、色々な言葉をかけてその意味を探した時がありました。もう、今は、おじさん?おばさん?になって、その彼らの子どもも、高校生や小学生の上級生になり、まるで一人で大きくなったような偉そうな顔をして、私の前を通り過ぎています。
 遠い遠い昔、まだ人間が言語を持たなかった時代、お互いの意志を相手に伝えるために身振り手振り、目くばせ等もあったに違いありません。いわゆる動作を通して、相互に必要な事柄(情報)を伝達し、読み取る聞き取る知恵を磨いてきました。また、現代のように様々な音が入り交ざり飛び交う事なく大気も澄んでいた時代は、まさに、風のそよぎ、雲の流れ一つでも、相互の情報伝達に大きな役割を果たしていたに相違ありません。
 しかし、このかまびすしい21世紀の今に誕生したあかちゃんは、否応無くこの混然とした社会を生きて行かなければならない宿命を持っていることになります。
  幼児が絵本に出会うことは、おもちゃ感覚で近寄って開いたページには、様々な世界があり、ページを開いたり閉じたりする動作も含めて、そこに広がる世界は、幼児の脳を刺激します。その刺激は良質のものであるに越したことはないのです。
他の生命体と人間が大きく異なる点は、言語の発達機能を持っていることですが、絵本に出会うことは、嬉しい、楽しい、悲しい、痛そうなどが、幼児の五感に、豊かに響く原材料がたくさん提供されていることであり、やがて、その材料が、幼児の言語発達能力にしたがい、言語として形を整え、語彙豊かに育って行くことになります。ふと気が付いたら、幼児達が幾つかの言葉を、しかも、表情豊かに語り始めているのが常です。 幼児の周囲で交わされている、お父さんやお母さん、兄弟姉妹、おじいさんやおばあさんの言葉、そのイントネーションは、幼児の五感の中にしっかりとインプットされているのです。
  絵本に出会うと言うことは、さらに色彩に対する感覚も育てます。また、描かれている形を見ることで、他の形との違いを知る事につながります。
幼児の知能や感性は計り知れないほどの、成長と無限の可能性を秘めていること、そのことを廻りのおとな達は、日々の多忙な暮らしの中で忘れているように思われてなりません。子育てのなかで特に大事にしたいものです。
 お父さん、お母さんも、子育てのなかで、多忙を極めているかも知れませんが、絵本の世界を楽しみ、声を出して読む面白さを味わい直してください。絵本を楽しむ心のゆとりがあると、幼児に語りかける言葉にも優しさがこもります。また、幼児達も穏やかに優しい表情で応えてくれます。

「絵本フォーラム」26号・2003.01.10
山崎慶子
山崎 慶子
(昭和学院短期大学講師・JPIC読書アドバイザー専任講師)

昭和学院短期大学講師。1927年台北生まれ。司書教諭として長年、学校図書館の育成に努め、また「母と子の読書相談室」を開設するなど読書推進活動の草分け的存在。JPIC読書アドバイザー専任講師も務めている。趣味はドライブという行動派。著書に『ことばの種まき』(全6巻・フェリシモ出版)『グランマの本棚から―親と子の100冊』(NHK出版)など多数。 


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