<故中川正文先生「偲ぶ会」報告( 2012/01/14)

 絵本講師の会(はばたきの会)2012年度交流会が、故中川正文先生を「偲ぶ会」として平成24年1月14日(土)、凛とした空気の冬空の下、芦屋市民センターにて開催されました。

 会場では、前方に先生の遺影が飾られ、その前に置かれたテーブルの上には小さなお写真、左手の机には先生がお書きになった絵本などの作品の数々や書、お写真が並べられていました。これらの品々を眺めていると、もう中川先生はいらっしゃらないのだということを痛感し、何とも寂しい気持ちになりました。

 会の進行は、芦屋2期池田加津子さんによる開会の言葉に続き、故中川先生のご冥福をお祈りして、黙祷を捧げた後、森理事長がご挨拶されました。
もう一度中川先生のお話を伺いたい……。皆のそんな思いをかなえるべく、早々にご講演のDVD上映に移りました。
灯りを落とした暗い会場でほのかにお香の漂う中、スクリーンに映し出される中川先生は、生き生きとされ、穏やかな語り口ではあるものの、熱くその絵本、本というものへの思いを語られます。
私が受講生の頃に一番印象に残っていたお話、「『絵本を与える』、『絵本を下(おろ)す』なんて言葉は、高い所から物を言っている、子どもを見下した言い回しだ」ということを、スクリーンの中の中川先生から改めて聞いて、今では『絵本を与える』なんて言わないけれど「養成講座」を受講するまでは『与える』という言葉に何の疑問を持たなかった自分が思い出されました。
そしてもう一つ、絵本講師として、母として忘れてはならないこと、「親子で絵本を読むということは『絵本を介して親と子が経験を同じくする』ということであり、決して読んでやるなどという大人が上位に立って行うものではない」ということ。母としては実際に親子で絵本を楽しんで、絵本講師としては絵本とはそうやって楽しむものだと伝えていくことで、私が感じ入った中川先生の教えを広めていきたいものです。
締めくくりはやはり先生の『すみれ島』の朗読です。会場には涙される方もいらっしゃいました。私もこの絵本には心が締め付けられます。戦争体験はない私ですが戦争にまつわる本を読んだり、昨今の8月6日、9日、15日が何の日か知らない若者が増加しているニュースを耳にしたりする度に、戦争の悲しさ、理不尽さを子どもたちに伝えていかなければといつも思います。

DVD上映後、献杯を捧げました。中川先生の御子息、中川真さんからご挨拶をいただきました。初めて会う私たちを前に少し緊張された面持ちで、何を話したらいいのかわからないとおっしゃりながらも中川先生との思い出を話してくださいました。先生の蔵書の多さに、年を追うごとにお部屋が増えていき、先生のお部屋がお住まいの奥へ奥へといってしまったこと、『がんばれさるのさらんくん』をお書きになっている時、家中がピリピリしていて、完成した時には先生以上にご家族の方々が解放感で溢れほっとされたこと、その後も「絵本を書く」とおっしゃる度に、ドキドキされていたことなど、ご家族でなければ知り得ないことの数々をお話しいただきました。そして、戦後間もないころからの先生のお考えである『子どもが大切』ということを、真さんご自身がここ最近の国内外で起こった震災の復興に携わる中でお感じになって、今更ながらにお父様である先生のお考えを理解・実感なさり、先生の先見の明を感じていらっしゃるご様子でした。お話されるうちに色々と思い出されたのでしょう。だんだんと口調も滑らかになり、話したいことは尽きないという印象でした。

会食後、芦屋1期・井下陽子さん、芦屋3期・舛谷裕子さんから追悼の言葉があり、先生との思い出をお聞きしました。背広の下に隠れたワイシャツの『ぞうのババール』や『ごろはち』のネクタイピンに目をやると「気づいたかい」と微笑まれたとお聞きして、受講生としてしか接していない私では知り得ない、スタッフとして何度も接していらっしゃる方からのエピソードにお茶目な方だったのだな、と遺影の先生を微笑ましく見つめてしまいました。

それから中川先生の作品を5名の方々が読んでくださいました。普段、読んでばかりで読んでもらっていない私は、久しぶりに絵本を楽しむことができました。5名のうち2名が男性で、女性での読み聞かせは何度も耳にしていますが、男性の声での読み聞かせは「養成講座」を受講以来で、何とも照れくさそうに読まれている姿に「がんばって!」と声をかけたくなりました。











最後に芦屋4期有松孝子さんが『追悼詞』を吟じられました。

追悼詞(安達漢城/作)

『人生は夢の如く亦烟の若し(じんせいは ゆめのごとく また けむりのごとし)

君逝いて茫茫転暗然(きみゆいて ぼうぼう うたた あんぜん) 

  髣髴たる温容呼べども答えず(ほうふつたる おんよう よべども こたえず)

大空漠漠恨み綿綿(たいくう ばくばく うらみ めんめん)』

詞の意味は――『人の命は、夢や煙のようにはかなく、定めのないものと分かってはいるが、君の死にあってみると、唯ぼんやりと、心も暗く打ち沈んでしまう。在りし日の君の姿をしのんで、名前を呼んでも答えてくれず、恨みだけが永く続いてつきることはない』――というものです。
有松さんの張りのあるよく通る力強いお声での吟詠は、この詞の内容とともに心に染み入り、きっと天国の中川先生のもとにも届いたことでしょう。

改めて、先生のご冥福をお祈りするとともに、先生のお教えを私たち絵本講師がたくさんの方々に伝えていかねばならない、と決意する会となりました。

                     

報告者・岡 真由美(芦屋5期)



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