ぼくの読み聞かせ教室



 イソップ童話については、「みつばちとゼウス」など知名度は高くないがスパイスのきいた6編を読み聞かせるだけにとどめたが、かなりのインパクトを与えたように見受けられた。
 続いてグリム童話から、「赤ずきんちゃん」「白雪姫」「手なしむすめ」の3編を取り上げた。ここらあたりから“読み聞かせ”による講義の進め方は、すっかりペースに乗って、事前に抱いていた不安はどこかに消し飛んでしまった。

 学生たちの感想や疑問点の中で、圧倒的に多かったのが、自分の知っているお話とは違うという指摘であった。「猟師が狼の皮を剥ぐなんて残酷!」「王子様がキスせんかった!」等々。実のところ、こうした反応はひそかに期待していたのである。そこで「待ってました。」とばかりに取り上げたのが、いわゆる“改竄(かいざん)”つまり“リメイク”の問題である。最初に読み聞かせたのは「偕成社」の『グリムどうわ二年生』であったが、その後「岩波文庫完訳版」『ほんとうは恐ろしいグリム童話(桐生操著)』『凶悪児童のための残酷童話のすすめ(村上兵衛・月刊誌新潮45から)』の一部を紹介して、〈残酷な表現〉と〈性に関する表現〉の“改竄”について考えさせた。

 反応その一、“リメイク”が行われていて、いろんなパターンのお話が存在していたことを知った驚き。その二、〈性に関する表現〉については、ほとんどが削除してリメイクすべきという考えで一致。〈残酷な表現〉については、リメイクすべきという意見と、教訓として必要という意見に分裂。グリム童話においては「悪事↓残酷な罰」というパターンがあるのではないかという指摘があった。その三、紹介した資料への反発。童話はファンタスティックでしかもハッピーエンドでなければならないという「こだわり」から。ディズニーアニメ・シンドロームといった感じ。その四、資料を肯定。発達段階に応じた“リメイク”は認めるものの安易な“リメイク”は不可とする意見。その五、『ほんとうは恐ろしいグリム童話』への強い関心。ぼくの蔵書がしばらくの間学生の間を回っていた。

 一件しか紹介できなかったが、いろんな意見や質問が飛び出して、それへの対応に困惑しながらも、ぼく自身大いに楽しむことができたグリム童話であった。

「絵本フォーラム」22号・2002.05.10

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