ぼくの読み聞かせ教室



 イソップ、グリムに続いて、アンデルセンを取り上げることにした。〈読み聞かせ〉によって進める講義もすっかり定着してきた感じなので、新たな試みに挑戦することにした。学生に読ませることにしたのである。作品は『人魚姫』『マッチ売りの少女』『はくちょうの王子』の三篇である。偕成社の『アンデルセンどうわ』二年生・三年生から、コピーを作成して数人に割り当て、前もって練習させた上で朗読させた。学生たちはそれぞれの思いを込めて、個性豊かに読み上げた。すばらしかった。しかし、それ以上に感動したのは、仲間の朗読を聞いている学生たちのきらきらと輝く眼差しに気づいたその時であった。この時点で、ようやく《テキストを持たせなくても講義は成立する》と確信することができた。貴重な体験であった。

 個々の作品に関する学生たちの反応について、まず『人魚姫』では、彼女の《報われない、悲しく切ない恋》について、大多数の共感が寄せられたが、中には少し気になる感想も見られたので、少しばかりプッシュしてみることにして、次の質問を提示した。(1)「もしあなただったら、魔女からもらった薬を飲みますか?」(2)「もしあなただったら、王子を刺しますか?」と。(2)の結果は「刺す24%」「刺さない・刺せない64%」(愛する人の幸せを願うから16%)となった。 「状況がほんとうに理解できているか」とか「奇を衒ったり、プッたしていると見られなくもない回答」も見受けられるので、そのまま受け入れるわけにはいかないが、それなりにある傾向を示していると言えるのではないか。どうしても自己中心的になり、《無償の愛》はどこに行ったのか?と嘆くのか。それとも「女性の自我」が確立されつつあると喜ぶべきなのか。とは言うものの、ほとんどの学生たちが「切ない」「胸が痛む」「涙がでた」と感想を述べてくれており、アンデルセンの《思い》は確かに伝わってると思う。

 アンデルセンに関して、忘れていけないのは、偉大なストーリーテーラーとしての巧みな《語り口》である。各作品の要所々を、原作を忠実に翻訳していると思われる『岩波少年文庫』によって再度読み聞かせた。『人魚姫』冒頭の人魚の宮殿の描写等のすばらしさに学生たちも感動していたようだ。

 当初、《テキスト無しでやれるだろうか》と心配していたが、少なくともこと《童話》に関しては、活字を見ない方がより集中できて、イメージも描き易いという感想を聞くようになってきた。

「絵本フォーラム」23号・2002.07.10

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