リレー

子どもと向き合う時間
(林百郎法律事務所弁護士・毛利 正道)


写真  現実とバーチャル(映像)の暴力をシャワーのように浴びながら孤育ちする、自己肯定感を奪われつつぬくもりと自己実現を求める現代の子どもら。犯罪によってこれを果たそうとする不幸な結果とならないためにも、彼らを丸ごと愛し、その求めに正面から応えてあげたい。これが、担当した加害被害少年犯罪とたくさんのご感想をいただいた「子育てキーワード」講演活動の中で強く感じていることです。
 アメリカ海軍の中に、狙った相手を必ず殺せる暗殺部隊というものがある(少なくとも「あった」)のですが、彼らの訓練の第一段階が、万力のようなもので顔とまぶたを固定しておいてバイオレンス(暴力)に満ち満ちた映画を次々に見せるもので、何も拒絶反応を示さなくなると人間を平気で殺せるようになったとして訓練終了とのこと。映像相手に孤育ちする今の日本の子どもたちは、さしずめ、20年間緩やかな万力でバーチャルに釘づけにされているようなものです。私と妻は、今21歳の息子が生まれて間もないときに、開いてもB5版にしかならない60冊くらいの絵本「まんが日本むかし話」を買って、毎日寝るときに読んであげました。仰向けで持っていても重くなく、途中で親が眠っても邪魔にもならず、絵もきれいで読んでいる私も楽しかったことを覚えています。今16歳の3人目の子どもが目もくれなくなった頃には本の角がかなり丸くなっていた程よくお世話になりました。
 子育てでもっとも大切なこと、それは、毎日「ああ、今日も子どもが生きていて嬉しいな」と思うことです。子どもが幾つになってもです。そういう目で見れば、子どものすてきなところがたくさん目に入ってきます。3人目の子は小さい時、何をするにもユックリズム、悪く言えばのろまでしたが、遺跡にだけは目を光らせる子でした。「波長が長いところがいい。よし、この子には、早く、という言葉を決してかけないで育てよう」とひそかに決意して実践してきました。今では、少なくともかけっこと泳ぎはとても速く、優しいですよ。
絵本フォーラム21号(2002年03.10)より

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