リレー

一番確実な心の栄養剤
(奈良・あけぼの・大門保育園園長・楠瀬 浩子)


 最近、事件を起こす少年たちのニュースをよく耳にしますが、専門医が「彼らは自分をうまく表現できない。もう少し自分を表現する方法を持っていたなら、これらの事件は起きなかっただろう」とおっしゃっているのをお聞きしたことがあります。また、「彼らの9割は両親から絵本を読んでもらうような経験をしていない」ということもお聞きしました。
 「家事で忙しいときにまとわりつくこともなく、とても行儀よくテレビを見ていて、手がかからないよい子なんですよ」とお母さんからお聞きすることもありますが、幼児、低学年学童へのテレビ、ビデオの見せすぎは、脳にいい刺激は与えず、逆に脳を痴呆老人化させたり、冷淡でキレやすい子どもにしてしまったりすると言われています。
 子どもたちが人間としての心(相手を思いやり、人を愛する心)を養う時期には、思いをめぐらし、心を震わす体験が必要です。わくわくしたり、胸が熱くなったり、思わず涙がこぼれたり、怖い気持ちになったりすることで心が深まっていきます。また、日本には独自の豊かな表現力があります。雨の音一つでも、しとしと、ざーざー、ぽつぽつ、ぽたぽた、ごうごうなど、様々な表現があり、その微妙な違いが声の強弱、トーンで伝わってきます。たくさんの言葉や表現のシャワーを浴びることで、子どもの心の幅がぐーんと広がります。
 予測できないほど、無限の可能性を持った大切な子どもたちが個々にすばらしい感性を持ち、あたたかい心を持つ人に育ってくれるよう願いを込めて……。だれでも、今晩からできる「心の魔法」、それは絵本の読み聞かせであると思います。一番原始的で、一番確実な心の栄養剤です。
絵本フォーラム36号(2004年09.10)より

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