リレー

読んでいる大人も幸せになれる
(呉市郷原保育所・原 京子)


 子どもが小さかったころ、風呂から上がって絵本を読むのが日課だった。今、その娘たちは社会人と大学生になっている。
 最近、「ねぇ、母さんが毎日、あなたたちに絵本を読んでいたのを覚えてる?」と聞くと、「うん、覚えてる」と即座に返事が返ってきた。『せんたくかあちゃん』『ゆうちゃんのみきさーしゃ』『スイミー』……と次々に絵本の名前を挙げる。絵本は子どもにとって一生の思い出になるのだと思う。
 そんな私は、保育士の仕事を長い間やっている。以前、子どもに落ち着きがない、なぜかイライラしている、保育内容を何とかしなくては……と悩んだあげく始めたのが、保育士が子どもを抱っこして、1対1で絵本を読み聞かせることだった。子どもたちの様子は、じわじわと変わっていった。保育士との信頼関係もできてきた。家庭にも絵本が増えてきた。少しずつ、自分を好きと言えることが多くなってきた。「あなたのこと、大好きよ。大切なんよ」という私たちの気持ちが伝わっていったのだと思う。
 もととも絵本が好きで、保育士としての仕事の上からも絵本の大切さを実感していた私は、昨年、絵本講師養成講座を受講した。聞くことすべてに納得した。何より実感したのは、今、大人も子どもも氾濫するメディアから一方通行に流される情報に冒されており、その危機から脱するには絵本の読み聞かせしかないということだ。絵本は、読んでもらっている子どもだけでなく、読んでいる大人も幸せになれる。そのためには、私たち大人に、あたたかく、優しい生き方が求められている。
絵本フォーラム42号(2005年09.10)より

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