リレー

教育は人間関係と言葉で成り立つ
(保育士・近藤まり子)


「なあ、先生、おうちごっこしよう」
 ある男の子に言われて、「いいよ」と応じて遊んでいると、その子が急に「あっ、お母さんだ。お母さんのにおいがする!」と言ったのです。『かぜのこもりうた』という絵本を読んだときのことを覚えていたのでしょうか。私は保育士をしていますが、子どもの感性に驚くとともに、うれしい気持ちになりました。
 しかし、このごろ、保育所に入ってくる子どもの中に、なかなか保育士の話に耳を傾けようとしない子が増えてきているように思います。自分がしゃべるときは、保育士の顔を両手で挟んででも、話を聞いてほしいのです。なぜそのようなことになってしまうのか、お母さんやお父さんとも話をしています。その中で、いけないことをしたときに、それがなぜいけないのかを子どもに伝えるのではなく、「もう! この子、だいきらいや」と言ったり、毎日、好きなビデオを選ばせ、見せているというような姿も見えてきました。
 今、親も長時間労働を強いられる等、厳しい生活の中で、ゆったり過ごす時間が奪われています。保育所に子どもを迎えに来て、家に帰ると食事の用意。食事の後、風呂に入れると、すぐ寝かせる時間になってしまいます。しかし、寝る前の少しの時間でもいいので、テレビを消して、絵本を読む時間を子どもと共有してほしいと思います。まずは、お母さんが手に取ってみて、おもしろいと感じられる絵本からでいいのではないでしょうか。
 松居直氏は、「絵本をめぐる親と子の暖かい人間関係、そして、絵本を通して語られる親の心のこもったすばらしいことば、この二つが子どもが保育や学校教育を受けるときの基盤となります。なぜなら、教育は、人間関係とことばで成り立っているものです。子どもが、この二つの力を身につけるのは、家庭においてですし、お母さんとお父さんです」と語っています。
 今日も子どもたちと、絵本を通して遊びが始まります。「今日は、忍者ごっこしよう!」
絵本フォーラム44号(2006年01.10)より

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