こども歳時記
〜絵本フォーラム第19号(2001年11.10)より〜
〜絵本フォーラム第19号(2001年11.10)より〜
 世界のあちこちで恐ろしい出来事が続いています。命がこんなにも軽く扱われていいのでしょうか。テロ事件では多くの人たちが命を奪われ、その子どもたちは親を失いました。そして、奪ったり奪われたりする連鎖を繰り返そうとしています。
 テロリストたちは、自らの命をも道具にして目的を果たしました。信仰や教育によって、自分の命を道具にしたり人の命をモノのように破壊することも当然だと思わされてしまうということはとても怖いことだと思います。彼らには、命がかけがえのないものだ、と伝えてくれる人はいなかったのでしょうか。
伝えよう、いろんな思い
 内戦が続いている国の子どもたちに大きくなったら何になりたい? と質問すると「大きくなるまで生きていたい」、という切ない答えが返ってきたそうです。私たちの子どもがこんな言葉を言わなくてもすむような社会にしなくてはなりません。今や平和は当たり前にあるものではなく、みんなで願うことでつくり保つものとなってしまったのではないでしょうか。今、子どもたちに、命の重さや愛や平和を伝えていかなければならないのです。そして、それは私たち大人のつとめなのです。
しろいうさぎとくろいうさぎ
『しろいうさぎとくろいうさぎ』
(福音館書店)
『しろいうさぎとくろいうさぎ』(ガース・ウィリアムズ作・まつおかきょうこ訳/福音館書店)は、白いうさぎと黒いうさぎの愛情を絵本にしています。愛という言葉を使わないのに、幼い子どもにも愛情を伝えてくれています。ゆっくりとうさぎの表情を読みとっていきたい絵本です。『モチモチの木』(斉藤隆介作/滝平二郎絵・岩崎書店)も、愛情や本当の勇気について伝えます。切り絵の美しい絵本ですが、幼い子のなかには怖がる時期もあります。黒が強いからでしょうか? そんな時は少し成長を待ってあげてください。国語の教科書でしかご存知ない方はぜひこの絵本で〈モチモチの木に火がついてる〉ページをご覧ください。圧倒される美しさです。
 生活の中で親の言葉で、命や愛や平和を子どもに伝わるように語るのは大変だし努力がいることかもしれませんが、絵本は親の言葉でないからこそ、教訓的でなくメッセージが伝わるのではないでしょうか。
絵本は子どもだけのもの?
 『1993年のクリスマス』(レスリー・ブリカス文/エロール・ル・カイン絵・ほるぷ出版)では、あたたかい心をくばることがわしのつとめ…といっていたサンタクロースも、おろかで欲ばりな人間にほとほとあきれはててしまいつかれてしまったようだ。サンタさんがつかれてしまう世界と、来たくなるような世界を、親子や教室で話し合うのもいいかもしれませんね。

1993年のクリスマス
『1993年のクリスマス』
(ほるぷ出版)

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