こども歳時記
〜絵本フォーラム第27号(2003年3.10)より〜
期待と緊張と不安の中で…
 首をすくめ、足早に後ろに流れていた風景の中に、春を見つけてふと、足を止めてしまう瞬間はいつ頃からでしょうか。少しずつ暖かくなっていく風を、あなたはどこで一番に感じますか? うきうき・ドキドキ・そわそわする気持ちになるのは、そんな風を心で感じ、新しく始まる生活に思いを膨らますからかもしれませんね。
ぼく、ひとりで
『ぼく、ひとりでいけるよ』
(偕成社)
 今までとは違う環境の中に向かう節目として、卒園卒業・入園入学を経験する子どもたち。その心の中は、新しい友だちや担任の先生への期待や不安、緊張でいっぱいなのではないでしょうか。初めての子どもが入園入学する親ならば、親子で緊張しているかもしれませんね。
 『ぼく、ひとりでいけるよ』(リリアン・ムーア/作、ジョーヤ・フィアメンギ/絵、神宮輝夫/訳、偕成社)あらいぐまのリトル・ラクーンは、生まれて初めての経験にいくつも出会い、それを乗り越えて成長していきます。その時おかあさんは、リトル・ラクーンを信じ、優しく見守ります。
 子どもが親の手を離れて一人で出掛ける。それは、子どもにとっても親にとっても、期待と不安が交互に押し寄せてくることかもしれません。でも、子どもの力を信じて暖かく見守っていけるように、親である私たちも子どもとともに成長していきたいですね。
たまには赤ちゃん絵本も開いてみよう
 それでも一人前になるのはまだ先の話。親の手助けは今まで以上に必要かもしれません。もちろん、身体的なことではなく、精神的な面での話ですが。
 子どもが成長すると、絵本にも幅が出てきます。そして、今まで何度も繰り返し読んでいた赤ちゃん時代の絵本を全く見なくなると、その絵本はもう卒業したんだと思いがちですが、あるお母さんからこんな話を聞いたことがあります。
 子どもが幼稚園や保育園、小学校に行きたがらない時に読んでみると、今までぐずっていた子が登園登校してくれた、というのです。不思議ですよね、ただ絵本を読んだだけなのに…。多分、子どもにとってそれは、温かい空気に包まれていた時代を無意識に思い出すことで「お母さんは、いつもあなたのそばにいるよ」というメッセージを感じてくれているのではないでしょうか。
 「字が読めるようになったから」「お兄ちゃん(お姉ちゃん)になったから」と言って、読み聞かせをやめないで続けてあげてください。絵本の読み聞かせは、想像力や読書力を養うというよりも前に、親の愛情を心いっぱいに感じられる時間だということの方が、ずっと大切なのだから。そして、親の愛情の中で育った力は、これから出会う困難に立ち向かっていく支えになると思うから。
くだもの
『くだもの』
(福音館書店)

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